[コメント] ザ・ロード(2009/米)
映画を見終った人むけのレビューです。
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戯れにもうひとつ小津を持ち出せば、待望の海を初めて臨む丘越えクレーン・カットは『麦秋』だ。
さて、驚愕のロケーションの連続で否応なしに世界の終末を納得させてしまうこの『ザ・ロード』という映画において最も感動的な瞬間とはどこか。もちろんそんなもの人それぞれ異なって当たり前なのだけれども、私にとっては最後の最後、ガイ・ピアース一家の一員として「犬」が登場するところがそれだ。父親がいて、母親がいて、息子がいて、娘がいて、犬がいる――それが「家族」である。というのは現在にあっては少々保守的すぎる見解だろうが、それが「アメリカ映画」が体現しつづけてきた思想であることも否定できないだろう。むしろ、もはや時代錯誤ですらあるかもしれないその保守性を文明崩壊後の世界において示してみせる強がりの態度が感動的であると云うべきか。
あるいは冒頭を思い返そう。異変前の世界においてモーテンセンは「馬」を飼育していた。これもまたきわめてアメリカ映画的な「幸福な家庭」像である。細部としての犬なり馬なりをおろそかにせず、それらを導入して映画世界を豊かに仕立てること。ジョン・ヒルコートというオーストラリア人は立派に「アメリカ映画」を受け継いでいる。いや、ことここに至っては「映画」を限定修飾する語としての「アメリカ」はもう不要かもしれない。なぜか。その答えは私が映画における犬や馬を特別視する理由とも重なるだろう。すなわち『リュミエール工場の出口』である。犬と馬こそが、ヒトとともに史上初めて映画の被写体となった生物であるということ。これは、いささかの誇張も曲解も含まない厳然たる歴史的事実である。
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