[コメント] 鬼火(1956/日)
主人公はガス代集金人の加東大介。担当地区変更で下町(江東区)を担当することになったばかりの約2日間のお話。先に集金先の配役をまとめて書いておくと、中北千枝子の中流家庭。中田康子が女中の家。こゝの主は中村伸郎で、その妻は三條利喜江。そして、津島恵子が、寝たきりの夫、宮口精二を看病しているボロ家。
クレジット開けは、土手上の道をアイスキャンデー屋−佐田豊の自転車が走る場面。道端に座り込んでいた加東が、キャンディーを買う。これで季節を提示する。続いて土手下の近くの家へ。勝手口から入るが留守。廊下に猫。台所の鍋の横に財布(ガマ口)が置いてあり、一旦手に取るが、気を落ち着け、戻して鍋でフタをする。これが帰宅した中北から感謝され、ラッキーストライク一箱をもらう。この煙草の銘柄で中北の生活水準を示唆しているが、この冒頭シーケンスで、主人公の欲望とそのコントロールを描写し、キャラクターの前提(見る人によって異なるかも知れないが、私の感覚だと、ごく普通の人というか)を示している。
次に夜店の売り物を作っている男のところへ行く場面。昔は加東も夜店の仕事を一緒にやっていたようだ。男は、加東のタバコ(ラッキーストライク)を見て「日の丸」と云い、驚く(羽振りがいいと思ったのだろう)。下町の担当になったのは、取り立てが難しいから、とちょっと自慢する加東。こゝで、表の道で、豆腐屋から何か買う薄着の女性を見る、ミタメのショットを挿入する。これも加東のキャラ造型だ。
2つ目の集金先では、勝手口から入った際に、部屋の端に横臥した女の足(膝下)が見える。加東は靴を履いたまま膝で廊下を進み、部屋を覗こうとする。すると、中村が登場し、若い女中−中田が逃げるように走るのが見える。明らかに情事の最中だったということだが、中村は覗きの素行を上司に伝える、と云う。平謝りの加東。このとき、電話がかかってきて、中田が出、電話の相手が奥様で、中村の居留守の話をしていることが分かる。弱味を握ってヘラヘラする加東。
3つ目の集金先の前に、同僚の堺左千夫と昼飯のシーンがあり、堺が、今まで3回頂いた。女中とか未亡人とか、と云う。加東はこの堺の武勇伝(?)に影響されたことは確かなワケで、こゝは重要なシーンだろう。
3つ目の集金先が、草ぼうぼうの中の家。津島の登場。とてもやつれており、生きてる人ではないみたい。ガス代がかなり滞っているが、待って欲しい。薬を煎じるため、ガスを止められると困る。加東は煙草(ラッキーストライク)に火をつけてもらうが、これぐらいのサービスではダメだぜ、娘っ子じゃないんだから分かるだろ、というような会話。夜、うちに来させることに話をまとめるのだ。
そして、続く銭湯の場面がいい。嬉しそうに髭をあたる加東。それに繋げて、綺麗に身だしなみを整えた津島(美しい!)が訪ねて来るシーンになり、二人がイチャイチャするのだ。これ、妄想とすぐ分かるが、津島につねられて、イテテ、というショットと、剃刀で頬を切りそうになる銭湯のショットを繋ぐのは上手い。
その頃、津島は、寝ている宮口に、外出する予定だったが帯もないのでもうやめる、みたいなことを云うのだが、宮口が寝ながら身に着けている帯をスルスルと取って津島に渡す、というシーンが挿入される。宮口も、うすうす感づいているのだろうと思わせる。
そして、いよいよ津島が加東の下宿(2階の部屋。1階は大家の清川玉枝の居所)へ来ることになる、ということまで記載して、こゝから先の梗概に触れることは避けよう。加東が清川の尻を触るシーンがある、ということだけ書いておこう。津島と宮口の描き方は作り過ぎのイヤラシさも感じるが、エンディングは、タイトルを画面に実装する、画面的な見せ場であることは確かだ。ちなみに、ラスト近く、中村の妻−三條を登場させるのも上手い作劇だと思う。
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