[コメント] ウォール・ストリート(2010/米)
映画を見終った人むけのレビューです。
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前作『ウォール街』には、例えば、金の亡者の権化のような投資家の描き方なんかは偏見と先入観丸出しだったし、それはその対極としての労働者の描き方にしてもそうだった。
そういう、まるでゴツゴツとした岩のような手触りであったが、その映画には同じ岩であっても巨大な岩石を思わせるガツンとした手ごたえというか、身体全体で味わい、心の奥深くまで響くような衝撃があった。
それに比べれば本作にはオリバー・ストーン監督の、はるかに洗練された演出の力、映画づくりの上手さが感じられ、その手触りはなめらかで柔らかく心地よささえ感じさせる。しかし、その大きさは圧倒的に小さい。片手でさえあまるような掌中の玉に過ぎない。
前作は、従来の企業間の合併などとは大きく異なる「M&A(企業売買)」というものが徐々に登場しだし、いよいよバブルに向かうという時代に、そういう時代の大きな動きに「抗する」というと大げさだが、少なくともそういう時代のうねりと格闘し、その時代そのものを己のドラマに仕立て上げてみせるという、オリバー・ストーンの野心と気概を感じさせる力があった。
ところが本作では、「リーマン・ショック」とか「サブプライム・ローン」とかを題材にしているが、けしてそれらと格闘するのではなく、そういう時代のうねりを背景にしているだけで、描かれているのはなんともつまらないドラマに過ぎない。こういうのを「時流におもねる」というのではないか。
むしろ、オリバー・ストーンが前作で描き批判しようとしたのは、そういう「時流におもねる」金融ビジネスの暗部とそこにある人間ドラマではなかったのか。ところが本作を見る限り、オリバー・ストーンはただただ映画づくりに手馴れただけの、「時流におもねる」映画屋にしか見えない。
最悪なのは、本作のラストとエンディングにおける「ゴードン・ゲッコー」の姿だ。(役者であるマイケル・ダグラスではない)あれだけのことをしでかしながら、のうのうと姿をあらわし許しをこい、エンディングでは楽しげなホームパーティーにとけこんで。。。。
これはオリバー・ストーン本人の姿の投影としか思えない。昔はとんがって映画つくったり、みなから嫌われたり悪いこともしたけど許してね、仲良くしてねという、さもしい根性の反映としか思えない。
20数年前に見た『ウォール街』と本作の二つだけで、オリバー・ストーン監督のことをここまで言ってしまっていいのかなと思わなくはない。願わくは、監督のことをここまで言ってしまったのは私の勇み足であったと思いたいものだ。
しかし、仮に勇み足であったと反省する時がきたとしても、映画としての本作の評価はどうあっても変えることはないだろう。
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