[コメント] 黒い潮(1954/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
冒頭の飛び込みは自殺と描いている。目撃者のお爺さんがいる。衝突の瞬間は激しい光が明滅し、SF映画のように撮れている。それから映画は自殺か他殺かで騒然となる世間と新聞社を描く。国鉄総裁秋山、綾瀬駅。3万人の首を切ったのは一昨日、行方不明だった。 「死後轢断と思われる」という発表、これ根拠に他紙は他殺説。山村聰だけは不明で紙面づくり。幹部は不満顔。山村抗弁、観測や憶測に基づいてはいけない、特にこの事件は政治利用されやすい。「他殺だと組合弾圧に利用できる」と通りすがりの東大生の内藤に語らせるのは何か上手くない。
16年前。山村の駆け出し記者(「夕刊記者」とある)の頃の回想。妻が流行歌手と情死。新聞に憶測を書かれて近所に好奇の目で見られた。「世間とは真実とは関係のない、真実を押し流してしまうどす黒い潮(うしお)である」とナレーションが述べる。
記事が完成して、新人社員の左幸子はレジから金出して、新聞社のなかでビールで乾杯している(左幸子はクリーニングを運んでもいる)。まだ子供の給仕がいてお茶くみをしている。この雇用形態はいつまで続いたのだろう。
旅館で自殺者が休憩していたと記事。これは自殺説だと大勢が思い、山村はまだ決まっていないと抵抗する。白黒決めたい世間の空気が伝わってくる。「自殺と書かせてください」と河野秋武が懇願する。一方、自殺よりの記事は左派と見られ、「赤色リンチの恐ろしさをしらんのか」と投書がある。
寿司屋ではアメリカ説(六代目菊五郎が尿毒症で死んだと云われる)。社会部に進藤が来て、人員整理の必要と組合の悪口を説いて帰る。「なにぶんよろしく」。「世論に孤立して新聞は成り立つか」みたいな幹部会の議論もあり。目撃者は精神薄弱者(小笠原章二郎)で、記者の信欣三は面と向かって「馬鹿なんですよ」と呼んでいる。証言は認められないのだろうか。
風がない夜、事件がないといいがと云っていたら無人電車が突っ走った三鷹事件。上司の編成替えがあり滝沢は山村の部下を貰っていく。「秋山事件のマイナスをここで取り戻すんだ」山村の判断はマイナスと烙印が押されてしまう。捜査本部は自殺と発表の特ダネ。苦労が報われたと喜ぶ面々。しかし翌日、記事が出てから発表中止になる。どこから発表中止の命令が出たか捜査本部も知らない。山村は刑事の石山健二郎に縋りつく。石山は半泣きで逃げる。
祝賀会が山村の転任の送別会になったと滝沢は山村に告げる。「君は勝ったが負けた、新聞自体が負けた。こんな目には誰でも合うのだ」みんな卑怯よと泣く左幸子。時がくれば必ず判るんだと山村。映画は左幸子の涙で〆るのが麗しい。
すっかり料亭で山村を待ちぼうけの津島恵子はお約束にとどまり、不要な配役だったかも知れない。芦田伸介はまだ青年。聞き込みの千住あたりで山羊つれている少年がいる。オルガンの和音だけの劇伴は感じがいい。助監督は鈴木清太郎。
(評価:
)投票
このコメントを気に入った人達 (1 人) |
コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。