[コメント] 一枚のハガキ(2011/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
キネマ旬報、2011年度第1位作品。 なので、まぁどうしても見ようと。
新文芸坐で見てきました。
御歳99歳の新藤兼人監督作品ですが、とても99歳の方が撮った作品とは思えませんでした。
ファーストシーンと回顧シーンで出てくる水兵が整列しているシーンはとても衝撃です。 素晴らしい。 特に回顧シーンの方は、その水兵さんたちがまわれ右して暗闇の中に消えてゆく幻想的なシーンです。これぞ映画! 最近の技術向上で、こういう素朴で幻想的で映画そのものを象徴するようなシーンて少ないんですよ。 映画芸術を再度確認させて頂きましたね。これだけでもお腹一杯の映画。
前半は、農家に嫁入りした女性を(友子=大竹しのぶめぐる不幸なお話。 夫が出征して亡くなり。 その後、その弟と結婚しますが、弟にも赤紙が来て、義父が心臓病で死に、それを苦にした義母までも自殺。 女性は一人とりのこされます。
そんな友子に一枚のハガキを持ってくる男(松山=豊川悦司。 彼は友子の夫と同じ連隊に所属して、たまたま運良く生き延びた男。 松山が持参したハガキは、友子が夫に宛てたハガキ。 そこには、
「今日はお祭りですがあなたがいらっしゃらないので、なんの風情もありません。」
と書いてあるんですね。 そのハガキを書いた本人に一枚のハガキが手渡されます。
このときの大竹しのぶさんの演技はすごい。 すごいの一言。
ハガキを受け取って、そのハガキを持つ手がガタガタ震えて、とっさに松山に対して「なんであんたは死ななかったんじゃ!」と絶叫し、松山の話にうろたえ、床を後ずさりしながら柱にぶつかり、柱に向かっておお泣きして、再び松山に対して表情を変えて謝る。
この一連の瞬間描写をワンカットでこなします。 すごいね彼女。
後半は友子と松山の好意に至るまでのお話がユーモアも交えて色々と描かれます。
村の有力者(大杉漣)と松山の喧嘩シーンなどもあり、ユニークです。
余談ですけど、今、私がほのかに気に入っている女性がこの作品の大竹しのぶさんと重なって、彼女の尻を追いかける大杉漣さんが今の私。そんな思いも重なりましたね。
松山は復員してきたら、妻が自分の父親と駆け落ちしていた事実を知り、やけになってブラジルへ移住することを決意します。そして友子も松山についてゆこうとする。そんな二人を大杉漣が祝福するシーンで、大蛇に扮する場面がありますね。
どうもこのあたりから映画が別の方向に向いてしまったようです。
最後、ブラジルへ向かうために家を出ようとする友子が発狂して、家に火をうち、茅葺の家は全焼してしまいます。
そして二人は今一度この地で田んぼを耕し暮らしてゆく決意をする。
呪われた家を焼き打ち、再びゼロからスタートする。
戦後日本の家屋が似たような体験をしたように、復興に向けて動き出すというラストでした。
脚本家出身の新藤兼人監督らしい、しっかりとした内容。 しかも実際に戦争を体験してきた方のお話でリアルです。
でも後半のぶれ方はちょっとわたくしには理解が及ばなかった。 ここまで崩さずとも、前半の勢いだけで映画は成立したのではないでしょうか。
でも震災を体験した私たちにとっては勇気と希望を体感できる作品です。
第三の敗戦と言われる今回の震災に立ち向かおうとする姿勢を学ばせていただきましたね。
見事でした。
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