コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] キャプテン・アメリカ ザ・ファースト・アベンジャー(2011/米)

キャプテンアメリカの誕生譚。舞台はWW2ということで、冒頭は『レイダース』風味、以降『コンバット』風味だが、白眉は初期コミック版の設定を否定しないまでも根本から覆すというキャプテンアメリカの設定変更にあると見た。
ロープブレーク

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







本作のサブタイトルは「ザ・ファーストアベンジャー」であり、『アベンジャーズ』の前日譚も担っている。

その『アベンジャーズ』のキャッチコピーは、「日本よ、これが映画だ」で、作家の矢作俊彦などがこれに噛みついたことは(僕の)記憶に新しい。

矢作氏twitter曰く、 「アメ公に『日本よ』『これが映画だ』などと言われて心底不快。絶対この映画だけは見ないと心に決めた。なんだ、バカヤロ。一回かそこら戦争に勝ったからって。」 「しかも、その映画の主人公が『キャプテンアメリカ』だ。7、80年前、君たちのおじいさんやひいおじいさんを無残に殺して勝ち誇ってた野郎だぞ。」

確かに、『アベンジャーズ』のキャッチコピーはなんだかなあとは思ったよ。でも僕が苦笑で済んだのはそこに至るマーベルの諸作品群を観て、下手な邦題のようにキャッチが上滑りしてるんだろうとスルーすることができたからだ。『アベンジャーズ』はちゃんと劇場で観たよ。

例えば、本作からのキャプテンアメリカは、矢作氏の念頭にあると思われる初期原作コミック設定のアメリカ軍の先兵からは脱却している(がちお氏の指摘はまったくそのとおりでありまして、最近のコミックでキャプテンアメリカをちゃんと確認しようねって僕も思う)。ナチスを殺したいのかと問われて、誰も殺したくないが悪を許すことはできないと答える男になっているのだ。実際、敵はナチスをも攻撃対象に考えている。悪の「出藍の誉れ」なのだ。

白眉は、この台詞のやりとりの描写が、少年漫画っぽい正義のヒーロー誕生になっていないこと。くさくない描写によって、キャプテンアメリカは合衆国が正義の闘いをしていると信じられる限り合衆国を背負って闘うという「合衆国の正義」を一歩引いた見方で観る視点を映画を観ている側にさりげなく提供することに成功している。上手い。そしてその視点は次作以降のストーリーのキーになっているのだ。上手すぎる。

矢作氏は本作も観ていないのだろう。キャプテンが米軍捕虜を救出する場面で、日本人らしき捕虜に出会う場面がある。こいつも助けるのかとキャプテンが言うと、日本人らしき捕虜は、俺はフレズノ(大戦中に日系米国人収容所があった場所)から来たと返す( "What, are we taking everybody?" "I'm from Fresno.")。するとキャプテンは特にリアクションもなく全捕虜を同様に助け出し、その日系人は後にキャプテンから声をかけられキャプテンの私設精鋭部隊の一人となる。「フレズノ」と言わせるシーンをわざわざ入れてるんですよ。この映画を観た少なからぬ米国人の若い観客はフレズノの歴史や日系人との関係について調べたでしょう。マーベルはあの戦争をファンタジーにして忘却する気はないんだよ。そこは認めようよ、映画は観てから文句言おうよ矢作さん!

少なくとも気持ちの悪い日本の愛国戦争映画(どれとは言わない)よりはよっぽど大人の映画だと思ったね。右も左もそろそろ大人にならないと、それこそ英霊たちに申し訳ないんじゃないのかな。

(評価:★5)

投票

このコメントを気に入った人達 (3 人)YO--CHAN Orpheus プロキオン14

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。