[コメント] ドラゴン・タトゥーの女(2011/米=スウェーデン=英=独)
映画を見終った人むけのレビューです。
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本国スウェーデンで大ベストセラーとなり、世界的にも高い評価を受けたスティーグ・ラーソン原作の「ミレニアム」シリーズ。既に『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』(2009)としてスウェーデンで映画化もされたが、同じ原作を元にして、今度はハリウッドでフィンチャー監督が作り上げたもう一つの『ミレニアム』。
スウェーデン版を観てとても気に入って原作まで読んでしまった経緯があり、更にフィンチャー監督のファンであり、007大好き、『エルム街の悪夢』(2010)でマーラーを大絶賛した身としては、まるで私に観てくださいと言わんばかりの本作を見逃すわけにはいかぬ。大喜びで劇場へと向かった(それでも観る時期が遅れてしまったのは悲しいことだが)。
ただ、オープニング部分を観て少々違和感を感じずにはいられなかった。もっと落ち着いた雰囲気でしっとりと展開するような話を期待していたのに、出てきたのはMTV風(どっちかというと『GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊』(1995)のオープニングを塚本晋也に作らせたって感じなんだが)…おいおい。いくらクレイグが主演だからってなにも007にすることなかろうに。と、多少苦笑いしつつ本編へ。
前述したが、私は既にスウェーデン版、原作を経ているので、これは多少辛口になる。
スウェーデン版では敢えて切り捨てた原作部分を復活させる必要があまりないとか、原作から変える必要があるのかが疑問とか「私はレイプ魔」のタトゥを英語で書く意味は?とか、いくつもの疑問は出てくるし、原作版リスベットのメンヘラ的危うさがイメージとは違っているとか。あと、スウェーデン版にあった“寒さ”の演出が弱いとか色々とあった(逆にスウェーデン版と較べて、細かいところでこちらの方が良かったと思える部分も数多くあるのも確かだが)。
しかし、それら差し引いても、この作品の演出の質の高さは本物。超一流が撮ったらあの原作がこんなにサスペンス調になるんだ。素直にその点は感心出来る。実際カメラワーク、音の演出が出演者の巧さと相まって本当に見事なものに仕上がっている。スウェーデン版と比較するとモンタージュ技法が見事なまでにはまっていて、何気ないシーン一つを取っても実におもしろい。
サスペンスの基本は「志村〜後ろ後ろ」である。つまり、中の人は全く気がつかないけど、観ているこっち側では危機が迫っていることを知っていて、それをどきどきしながら観ていることになる。後半のミカエルの危機とかレイプされるリスベットの部分とかは明らかなのだが、それだけでなく一見何気ないシーンであってもきちんと計算された緊張感が演出されており、最初から最後まで小気味良くはまっており、次の展開が分かっていても、いや分かっているからこそその演出力の見事さには脱帽するばかりだ。
原作と違っているのは殺されたはずのハリエットが実は…というところだが、「あ、こういう展開もありだな」と思わせてくれたのはうれしい。続刊であんまり有効活用されてない部分だったので、これはこれでありか。
あとエロチック描写が頻繁に出てくるのは痛し痒しか。これを強調しすぎたため、ほとんどの映画賞にはかすらなかったが、これは物語上必要な部分だしなあ。
もし全くの白紙状態でこれを観たら確実に最高点あげていただろう。本当に映画として観たい部分をきちんと見せてくれたというだけでも充分本作は褒めるに値する。
それと言うまでもないがキャラに関してはほぼ満点。リスベットはスウェーデン版のラパスもうまいはまり具合だったと思うが、マーラーは本当に上手い。『ソーシャル・ネットワーク』の時はメインヒロインでありながらちょい役だったのでその個性を存分に示すことができなかったが、こういう極端な役演じさせると見事なはまり具合を見せてくれる。クレイグの巧さは折り紙付き。ただ、ミカエルがこんなに格好良い必要がなかったというところが残念なくらいか?一見単なるおっさんだけど、一本筋が通ってるって感じの人なんだから、スウェーデン版のニクヴィスト位が良いんだが…
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