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[コメント] 私が、生きる肌(2011/スペイン)

マッド・サイエンティストものなのかと思って、ほぼ何の前知識もなく鑑賞。
kiona

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







娘をレイプした男を被害者父親が強制性転換するという妄想設定なのに、被害者父親の憎悪に満ちた復讐譚を期待すると肩透かしをくう。レイプ犯が娘にしたことを「犯されるってどんな気持ちか俺がおまえに教えてやるぜ、おりゃあ!」と気がつけば自分がレイプ犯にしているみたいなアイロニカルな倒錯や、にっくきはずのレイプ犯にして元男が女に変身させたらあんまり色っぽくなっちゃって思わず発情マテリアルでも発情する自分の下劣さに身もだえするみたいな官能を期待しても、肩透かしをくう。はたまた、おまえの性器とおまえが犯して殺した娘の性器をチェンジリングぐらいの狂気性を期待しても、これまた肩透かしをくう。

で、この父親が、結局、何をしたかと言うと……娘をめぐる怒りの捌け口は精神科の担当医にすりかえて、実は和姦がこじれただけのかわいそうな坊やの体を好き放題つくりかえてしまう。腹違いの弟に寝取られた嫁をとりかえすことのほうが重要だったようで、娘をあんなにした相手だということも忘れて、やがてふつうに恋をしてしまう。要はただの変態なのだが、そういう輩に運命は辛辣だ。ろくでなしの間男であるアベルに赦した射精をカインにはついに赦さなかった。もてない童貞坊やに射精をゆるさなかったように。

いったい何を訴えたいんかな…という映画に思えるのだが、ふと思い出したシネスケのコメントが movableinferno氏の『ファイト・クラブ』評。「「ファイト・クラブ」やるより一日でも女として生きてみる方がもっとずっと強烈なんじゃないかな。」って「んなこと言われてもなれるわけないし…自分が逆のこと言われたらぶち切れるくせに!」などと思っていたのだが、でも、この映画はそういうことなのかな、と。

そう考えると、ビセンテが気絶させてしまった(やりそこねた)女に服を着せるような、要するにレイプ犯でもなんでもない普通の優しくて弱い男だという設定にも得心がいく。

ノーマルであろうと、アブノーマルであろうと、腫れ上がった煩悩垂れ下げて生きていく。痛い思いを上塗りしながら最早つかれてきた昨今だが、それを今はまだ無邪気なばかりの我が娘たちがこれから繰り返して行くのかと思うと、お父ちゃんは女になるまでもなくしんどい…解脱したい…

(評価:★3)

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