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[コメント] オールウェイズ(1989/米)

雲、煙、水、光、炎の横溢。山火事の原因が全く言及されない事や、主題歌の詞も含めて、劇中の火は、愛と、その裏面としての執着心、生命の暗喩。要所となる場面での、青の光との対照が利いている。オーラな映画。光と飛翔のスピリチュアリズム。
煽尼采

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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単に、死後の世界や守護霊などの要素のみならず、「自分の声が、他者の内的な声として聞かれる」という構造が、肉体的に隔てられている関係と対照的なスピリチュアリティ、魂の在り方を描いている。また、いかにもスピルバーグらしい、光に照らし出される飛行機を見つめるショットの、殆ど彼岸的な美しさも印象的。

もし火事の原因が放火であったり、人の住む場所であったなら、犯人の憎悪や、被害者の哀しみといったものが表れてしまい、炎は具体的な人間の情念を背負ってしまう。また物理的な原因に言及されると、炎にも消火活動にも即物的な印象が加わってしまう。いずれにせよ、火の抽象的な象徴性が保てなかっただろう。突如として運命のように起こる森の火災、という描き方は、的確だった。

ピート(リチャード・ドレイファス)は、死んでも後ろ向きな気持ちになどならず、見習い飛行士の青年テッド(ブラッド・ジョンソン)に霊感を与える守護霊としての仕事も、結構楽しげにやっている。だが、恋人のドリンダ(ホリー・ハンター)との再会が、彼に試練を与える。彼女の存在は、飛行士の仕事と並ぶほどに、ピートの人生に於いて大切なものだった。また、彼女は危険な飛行士の仕事に反対もしていた。このピートの生前の葛藤を解消する事が、テッドへの訓練と共に、ピートの課題となるのだ。

観客は、ピートの生前からドリンダに対しテッドが憧憬の目を向けている事に気がつくのだが、ピートは死後もそんな事は思いもよらぬ事で、能天気にテッドに恋人作りを勧めたり、ドリンダとの事を話したりする。却ってこの事が霊感となり、テッドはドリンダの許へ走ってしまう。この事は、ただ運命の皮肉と言うだけではなく、ドリンダの不安に逆らう形で飛行に出、結果、落命して彼女を悲しませたピートの、飛行機とドリンダを秤にかけて、例え一夜であろうと前者を選んだ事への、報いとも言えるかもしれない。

テッドはピートの言う事に何でも従う訳ではなく、ドリンダとの関係では、自身の、より奥底の声に従っているように見える。テッドがドリンダと夕食を共にするシーンでは、その事が、より切ない形で表れる。テープをかけるテッドに「もっと早送りしろ」と命ずるピートの声も届かず、かけられた曲でテッドと踊るドリンダ。口づけを交わす二人の姿に苦悩するピート。だが、ピートとの思い出の曲が流れ始めた途端、ドリンダは一人になる。彼女が一人、鏡の前で踊り、最後に蝋燭の火を吹き消す一連の動作は、彼女の影のフォルムと併せて、死者に捧げる想いの、美しい視覚化となっている。

終盤、そのドリンダがテッドの代りに独断で飛び立ち、消火活動へ向かうシークェンスでピートは、自分が生前、ドリンダに散々味わわせていた「恋人が危険な飛行を行なう不安」を、身を以て味わう。ドリンダが機体に向かって行くシーンでは、彼女は青く染まった薄闇の中にいて、ピートは赤い照明の許にいる。これは、前半でピートが死出の飛行に出る直前の、寝室のシーンでの二人に当てられていた照明を、ちょうど逆転させた形になっている。

またドリンダも、ピートが命懸けで行なっていた仕事を肌で体感する。いつも彼女にはふざけた態度しか見せなかったピートが、実際はどれほど真剣な現場にいたか、身を以て理解するのだ。操縦席の彼女の表情と、ガラスに映った真っ赤な炎が重なるショットや、彼女の眼前の、赤一色に染められた森など、炎はドリンダの精神そのものにも見える。

操縦席での、赤い光に照らし出されたドリンダの顔と、背後から別れを告げるピートの、青い顔。二人が青い水の中で再会するシーンは、最後に水面の光に向かって浮上するショットを挿入している事も含めて、スピリチュアル(霊的・精神的)な雰囲気に包まれている。

(評価:★3)

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