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[コメント] アルゴ(2012/米)

アカデミーは作品賞よりも監督賞をあげるべきだった。何故ノミネートさえしない?
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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 『グッド・ウィル・ハンティング 旅立ち』(1997)で、役者としてのみならず脚本家として鮮烈なデビューを飾ったマット・デイモンとベン・アフレック。ただし、友人としても仲の良いことで知られるこの二人の以降のフィルモグラフィは随分違っていた。役者として順調にキャリアを積み、今や押しも押されぬハリウッドのトップスターとなったデイモンに対し、役者としてはやることなすこと上手くいかず、すっかりラジー賞常連となってしまったアフレック。こう言っちゃなんだが、明らかに顔の良さだったらアフレックの方が上だと思うのだが、どこでこんなに違ってしまったんだろう?と思うこともしばしばだった(もちろん顔が問題ではないのだが)。

 しかし、本作を観て明らかなのは、アフレックに関しては、役者としてのみ考えてはいけない人だったということ。いやむしろ役者ではなく、監督として、脚本家として一級品ということが本作で分かった。

 まずこの作品、着眼点が素晴らしい。これは実際に行われた作戦が物語の元になってるそうだが(私は記憶がない)、こんな馬鹿げた作戦が大真面目に行われていたという事実にまず呆れる。「事実は小説よりも奇なり」とは良く言ったもんだが、それを真面目に映画作りしようとした時点で半分は成功した。

 この素材をコメディタッチで作りたがる監督はそこそこいるかもしれない。素材自体が面白いので、そのほうが客を呼べるだろうから。政治家を皮肉って、真面目な取り組みを揶揄するのは、映画の大切な要素でもある。多分その欲求は高かっただろうが、あくまでこれを真面目に描くことにって、この無茶苦茶な作戦を大切なアメリカ史の一コマとして位置付けてみたのだ。

 映画監督として、受けよりも一本の映画の完成度を徹底して上げていこうとした姿勢に頭が下がるし、それが出来た時点で、よくここまで自分を抑えて作ったものだと感心できる。本作の質の高さは、監督のこの自制心にこそある。

 エンターテイメント性よりも映画の質にこだわり、しかもきっちりエンターテイメントさせている。80年代という時代の雰囲気を全編を覆う緊張感を途切れさせる事なく物語を展開させ、最後は一気呵成に物語を引っ張る。

 これだけのことを一本の作品に詰め込むには相当な実力がないと出来ないのだが、アフレックはそれに叶うだけの実力を持っている。少なくとも本作はそのことを証明してみせた。たいしたもんだ。2012年のアカデミーではアフレックは監督賞にはノミネートもされなかったが、私としては作品賞よりも監督賞をあげたくなった。

 それで出来の方だが、これまでの論点とは矛盾するのだが、話が固いのがちょっと気になるところ。せっかくの素材を活かしきれてないのではないか?とも思える。それこそが売りなのは分かるけど、観てる側としてはもうちょっとコミカルな部分があった方が良かったような気にもなる。真面目なところはアフレックに任すとしても、折角のグッドマン&アーキンのコンビをコメディリリーフとして起用したのだから、そっちを上手く活かしていけば良かったな。

 そのアフレックについてだが、救出劇のプログラムを作った人物と実務が一緒ってのは無理がないか?実際にその通りだってなら、それはリアリティだろうけど、むしろとんでもない作戦を立てたのは別人で、実務部隊としての主人公が頭抱えてぼやきながらミッション行ってるって風にした方が物語的にははまったんじゃないだろうか?

 それに、これを言っては元も子もないが、やっぱりアフレック、役者としては今一つ。もっと役に合った役者はいくらでもいたものを。その辺もっと注意すれば、大変素晴らしい作品になったようにも思える。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)おーい粗茶[*] マカロン 死ぬまでシネマ[*]

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