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[コメント] 007 スカイフォール(2012/英=米)

新機軸のボンドも、あれはあれで「あり」だろうけど、やっぱりボンドって言ったらこれだよな。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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 私にとっては、やはり最初の記憶が強いのだろうけど、ショーン・コネリーとロジャー・ムーアのボンドが強く刷り込みがなされているようで、ボンドはどこか茶目っ気があって、ダンディで、どんな危機に陥っても、次の瞬間には何事もないように、むしろ一瞬前の危機を完全に忘れきったように女性を口説くようなボンドの姿が理想と思っている。

 この姿は他のどんなヒーローが真似しても駄目。ボンドだからこそこれをやって良い。そんな風にも思っているし、結局それが私が007に求めているところとも言える。  そりゃ、それだけで物語が作れないのは分かるし、単なるマンネリズムに陥る危険性もある(実際このマンネリズムに陥っている作品も何作かあるのも事実)。だから、新機軸のボンドの姿を観ても、「これはこれであり」とは思っている。

 その意味で新機軸となったクレイグ=ボンドだが、これはいろんな意味で既存のボンドの姿を破壊していった。ボンドの極めて人間的な側面を強調し、生身のアクションもリアリティあるものとなっていた。その姿、前々作『007 カジノ・ロワイヤル』(2006)、前作『007 慰めの報酬』(2008)を観ても、「これはこれであり」とは思う一方、やっぱりしっくりしないものを感じてもいた。特に前作のあまりにリアルに苦しむボンドの姿を観てしまうと、「なんかちょっと違うよな」という思いにさせられてしまった。

 人間的な苦悩を抱えたボンドの姿は、新機軸と言うより、当時受け入れられていた『ボーン』シリーズのリアリティを受けてのことかとも思うのだが、そのリアリティがなんかしっくりこない。ボンドは真似られてもいいけど、真似をしては駄目だろう。という、ちょっとした幻滅も感じていたものだ。

 それで、クレイグ=ボンドは私にはあんまり合わないのか?と思っていた矢先に新作のトレーラーを観て、考えを一気に変えた。予告だけで分かる。これはダブルオーセブンじゃない。これぞゼロゼロセブンと言うにふさわしい作品になると。

 もう期待度満点。無い時間を無理矢理作って劇場へと向かい、そして、もう本当に大満足。

 これよ。これこそがボンドよ。クレイグのはまり具合も、アクションも、意外性のある物語も、ちゃんとギミックを使いきるガジェットの数々も。何より全編通して不敵なボンドの姿に痺れる!

 最初のアクション部分で命がけの一瞬を通り越えたとき、着衣の乱れを直す一瞬があった時、運を天に任せているとしか思えない行動を取った時、命がけのミッションに向かう時でも女性エージェントに一度軽口を叩いてから出かける時、絶対的自信を持って無言で女性に近づく行動、凍った沼に落ちてびしょ濡れになっても、次に現れるときはスーツをぴったり着こなしている時。一々「これがボンドだ」と思わせてくれる。

 そして敵もちゃんと明確にしてくれるのもシリーズらしさ。今回のバルデムは完全にイッちゃったキャラだが、損得勘定無視して無茶苦茶やるからこそ敵っぽくて良い。  言ってしまえば、頭から尻尾まで全部アンコが詰まった鯛焼きのようなもので、これこそ「ゼロゼロセブンだ」と思わせてくれる作品と言っていい。

 監督もそれをよく知っていたのだろう。きっちり「これぞボンドだ」という造形で作り上げてくれている。これはシリーズの中でもコネリーの『007 ドクター・ノオ』(1962)、『007 ロシアより愛をこめて』(1963)および『007 ゴールドフィンガー』(1964)からの引用が多く、シリーズを通してのファンだったらニヤニヤできる部分が数多く含まれているが、それも計算の内だろう。

 …と言うことで、本当に大満足な作品だったのだが、敢えてその中で苦言を呈してみる。

 これは英語の読解力があれば問題ないことなのだが、まず字幕が酷すぎた。過去シリーズにあった言葉の使い回しや、その引用を全く無視して訳しているので、それだけでイライラしてくる。ボンド特有のコミカルな言い回しをジョークを解さずに訳してるので、字幕だけ観てるとボンドの口調が固すぎるのだ。

 一番腹が立ったのは、劇中Mi6の成立がアイルランド紛争の中で生まれたことを簡約に巧く説明しているのに、歴史を全く無視して訳しているため、何がなんだか分からない説明になってしまっているところ。説明が少ない作品だけに、この部分の重要性に全く気づいてなかったんだろうな。思い返す度にムカムカする。

 それと、先に敢えて否定的に書いたことで恐縮だが、前々作、前作と続いてきたリアリティ溢れる設定を全部無視したのが正しかったのかどうか。特に前作ラストで新しい敵、しかもそれは個人ではなくネットワークとしての敵の存在が暗示されていたが、それが完全に無視されたことが残念だった部分もあった。物語の都合上、それは引き継げないと判断したのかもしれないが、明確な敵を出してしまったことによって、物語がぶつ切りになってしまったのが、ちょっとだけ残念とも思う。

 無い物ねだりというのは分かってるけど、ここはもっと深くつっこんでほしかったかな?

 シリーズとしての007としては大正解。しかし新しいクレイグのボンドとしては番外編と言ったところだろうか?

 さてそうなると、次の作品はどうなっていくやら。『007 慰めの報酬』の続編として、ハード路線となるのか、それとも観客受けを狙い、本作の系統を続けていくのか。希望としてはその融合したものだが。

 まだ気が早いかな?

(評価:★4)

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