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[コメント] みなさん、さようなら(2012/日)

設定的にも映画的にも非常に興味深い映画だが、あえて「大山倍達ファン必見!」と誤った煽りをしてみる。
ペペロンチーノ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







[設定=団地という空間について]

団地は、いわば“擬似都市”である。 団地が都市(というか街)と決定的に違うのは、人や建物が新陳代謝しない点だろう。 この映画の団地は「静かに死んでいく街」として描かれる。 本来、街は生き物なのだ。しかし団地は“人工物”なのである。 生き物である街は繁栄もするし衰退もする。しかし人工物である“擬似都市”は、老朽化と共に朽ちていくしか道がない。 そして映画は、団地が朽ちていく過程と近しい人々が去っていく過程がリンクする。

その間、濱田岳演じる主人公は成長しない。

実際、波留や倉科カナといったマニア好みの女優陣が、もとい、同級生の女性陣が、髪型や化粧に劇的な変化を見せるのに対し、濱田岳の見た目はほとんど変わらない。 中村監督自身も「さすがに中学生の時は手を入れる必要があったけど(笑)、それ以外はそのままでいいと思っていた」といった意味のことを語っている。 スーツに袖を通したり戦う意思を持ったりもするが、それは本当の成長と言うよりも、本当の成長のための過程なのだ。 意外に性的な描写が多いのも、男の子の成長過程には避けて通れない道だからだ。

そして彼は、団地を去る=団地という殻を破ることで、本当の成長を得るのだ。

[映画の構成について]

この映画、カメラは団地から一歩も出ず、徹底して主人公視点を貫くが、正確には三度ほど第三者の視点で物語を進行させる構成となっている。

まず冒頭。「団地へようこそ」みたいな映像で(これは実存する映像らしい)、「団地」という空間を客観的に観客に提示する。 さらに中盤では主人公の過去を、テレビ放映の形を借りて観客に明かす。 そして母親の残した日記。このために母親ナレーションで映画をスタートさせている。

主人公の「環境」「背景」「心情」と、まるで三段アップのように、第三者の視点を利用しながら掘り下げていく。 中盤の「背景」を境に、主人公に対する見方がガラッと変わる。彼は、トラウマという“殻”を破れずに、団地という“殻”に籠っているのだ。 そして、「母の愛情」という大きな“殻”を破ることで、本当の成長を得る。これは「殻を破る」物語だ。

確かに、団地を守ることはできなかったかもしれない。 しかし彼は、一人の少女を守ることで、リアルな成長に向けた大きな手がかりを得るのだ。

[大山倍達について]

特に書くことはない。眉を剃れ!

(13.02.09 テアトル新宿にて鑑賞)

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)ぽんしゅう[*]

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