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[コメント] オブリビオン(2013/米)

人を人たらしめているもの
Orpheus

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







それは《記憶》である、と私は思っている。

モーガンと共に自爆してトム49号はこの世から消え去ってしまったが、地上に残された妻が再び52号にトム(オリジナルや49号)との想い出を語り聞かせることで、消されていた52号の《記憶》も49号の時と同じように繋がって「昔のジャックを取り戻す」(=コピーにすぎなかったクローンがオリジナルとしての人生を生きなおす)ことは十分可能だと思う。トムやそのパートナーを大量生産していたモノリス的なマザー(=テット)は爆破で消失してしまったが、タイタン行きの名目のもと、何からの理由で5年ごとに「交換」されていたトムがテットの助けなしでも生きていける命を持っていたことは、爆破から3年後に52号が妻の元に姿を現したエンディングからも明らかだ。

《記憶》を通じて「昔のジャックを取り戻す」という視点、あるいは機能を制限された不完全なクローンが「オリジナルに近づく」という視点。これはコシンスキー監督の前作『トロン・レガシー』において、完全な世界を構築するよう作られたクルーが創造主ケヴィンのディスク(=ある種、これも記憶の塊だ)を欲しがったことにも通じるものだ。寿命の短かった昔の人間が永遠の命を探し求めたように、デジタルなものに取り囲まれてルーティンワークを繰り返す日常に息苦しさを感じていた49号は失われかけているアナログな文化や森の中の静かな生活を求め、「人らしくありたい」と願っていた。それは消された自分自身の《記憶》を取り戻すことであると同時に、地表から除去され、忘却(=オブリビオン)されつつあった人類の《記憶》を辿ることでもある。

ところでこの監督、建築と3DCG畑の出身というだけあって奥行きのある空間や構造物の立体感を活かしたショットは確かに巧い。「光」ばかりが注目されてしまった前作も、そうした観点から見直したら、また新たな発見があって面白いと思う。本作には演出力不足やオリジナリティの乏しさも少なからず感じたが、まだこれが二作目だ。ポストジェームス・キャメロンを担うデジタル世代の監督として、今後の成長に期待したい。

(評価:★4)

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