コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 王様と私(1956/米)

「エットセトゥラ、エトセトラ」か。思わず会話に盛り込みたくなるしゃべり方ですな。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 実話を元に製作された舞台の映画化作品。これまで何度も映画化された普遍的名作だが、その中で最も有名なのが本作。ユル=ブリンナーデボラ=カーという個性ある二人の名演とダンスシーンで彩られている。

 シャム(現在のタイ)は周辺の国々が次々と欧州各国と“同盟”を結び、結果的に植民地にされてしまう中、独自性を打ち出し、最後までどの国にも屈しなかった唯一の国だった。これは二代に渡る王の巧みな外交戦術と交渉する欧州側の思惑のずれとが重なった結果だが、二代目王が微妙なバランス感覚を保ち続けたのはイギリス人家庭教師の教育があったからだと言われている…表舞台には立って無くとも、女性が歴史を変えた一つの例。

 尤も、実際彼女が行ったのはこども達の教育に携わることだけだから、それだけでは勿論舞台や映画にはならない。それで脚色が必要になるのだが、本作ではそれはミュージカルシーンになった(『アンナと王様』(1999)という、大幅な脚本改変によってスペクタクル作品にした例もある)。

 このミュージカルシーンが見事なくらいにはまっていた。シャム版出エジプト記のエキゾチックな魅力と言い、ブリンナーが近代化と伝統の狭間で一人悩む時の「ザ・パズルメント」と言い(これはザナックにより、一旦必要ないとされ、撮影されなかったのだが、試写を観てその誤りを認め、急遽追加撮影されたというエピソードがある)、見事にはまっている。圧巻はブリンナーとカーの二人による圧倒的なダンスシーン「シャル・ウィ・ダンス」で、この迫力は凄いもんだった。

 キャスティングも又良く、特にブリンナーのシャム王はとにかく迫力。この人役によってどんな国の人もこなせるのが凄い(知ってる限りでもアメリカ人の他にロシア人、ユダヤ人、エジプト人そしてこのシャム人がある)。「エトセトラ、エトセトラ」と言う口癖も良いアクセントになってる(泣きが入るラストシーンで不意に笑えるのはこの言葉あってこそ)。カーの融通の利かない、頑固なイギリス人女性(彼女自身がイギリス人なんだよな)を上手く演じていた。

 本作で印象的な王様を演じたブリンナーはミュージカル作の舞台劇となった作品でも同じ役を演じ続け、4625回の講演記録を作る。最後のステージでは(1985'6)、自ら癌に冒されていることを告白して最後のステージを勤め上げたそうだ。これぞ役者魂だね。

 又、カーは本作でアカデミー主演女優ノミネートとなったが、歌が吹き替えだったため(この歌を歌ったのは『マイ・フェア・レディ』(1964)でヘップバーンの詩の吹き替えを行ったマーニ=ニクソン)、それがオスカーへのハンディとなったと言うもっぱらの噂である。まあ、この年はスキャンダルを乗り越えてハリウッド復帰を果たした『追想』のバーグマンの話題には敵わなかったか。

(評価:★4)

投票

このコメントを気に入った人達 (3 人)りかちゅ[*] 死ぬまでシネマ[*] はしぼそがらす[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。