[コメント] 真夏の方程式(2013/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
単なるドラマの延長線ではない、ドラマ映画化のひとつの到達点まで辿り着いた作品。
映画を語る上で原作のことなどどうでもよいことだが、この映画について言えば、東野圭吾の環境問題への主張を上手く監督が汲み取り、反映できている。そしてその環境問題への主張である「選択」、、「選択」は各々の利益だけ考えるのではなく、お互いのことをよく理解した上で着地点を探すということ。これを殺人事件へ波及させながら物語が展開。
少年がした行為に対し少年自身が気づいてしまう時に、成実(杏)に大きな重荷を背負った者にしかわからないことを伝えるという選択をさせる。それは2重に重なっていた家族の秘密を知ることによる正しい道への選択が可能になったというひとつの答え。 『容疑者Xの献身』でもそうだったように、ちゃんとこういった結末が用意されているところがいいところ。 脚本の出来がいいのはもはや言うまでもなく、この手の映画に陥りがちな謎解きに終止させるのではなく、「家族の秘密」に興味をひきつけられる。
選択するためにはどういった道筋を立てればよいのか、それを明示していたのがペットボトルロケットの実験だ。あのシーンで様々な前提条件の元でペットボトルロケットを打ち上げ最終的に理想的な条件まで辿り着く場面は、単に海を見せたいからという表面的な理由だけでなく、最終的に少年に選択する機会がきてしまう(この段階ではわからないが)少年への正しい選択が出来るための場面で、そういう振り返りができるよう観客に訴えている。
杏の配役の妙には思わず唸る。 見ている観客がきっと皆そう思ったに違いないと思えるほど、海沿いで暮らす健康的な憂いのある娘役。他にはきっといない。ドラマでは外れかけていた吉高由里子もあれならば問題無いだろう。
練りこまれた完成度の高い作品であるが、唯一、もう少し深堀りが欲しかったのが、成実の殺人への動機だ。幼き頃から薄々感じてきた家族の平和の要でもある父の秘密を、ある日突然見知らぬ女に暴かれそうになり、追いかけてでも写真を取り戻す、殺害する行動動機が弱いように感じた。
とは言え、この映画を作るための連ドラであり、どちらに力を入れて作っているのかは映画を見れば一目瞭然。ここまでの作品にはなかなか巡り会えない名作である。
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