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[コメント] 冷たい血 AN OBSESSION(1997/日)

引き受けるべき滑稽さ。
crossage

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







仕事にかまけて家庭を顧みなかったマッチョ刑事(石橋陵)が、職務中何者かに拳銃を奪われる。負傷し、妻には離婚をつきつけられ、仕事もやめ突然人生の路頭に放り出された彼がアイデンティティ・クライシスに陥る。おそらくこの監督のことだから、おおむね拳銃を男根のメタファーにでも見立てているのだろう。

別れた妻とヨリを取り戻そうと懊悩してるときに、彼女から「まずあなたは奪われた拳銃を取り戻しなさい」と言われる。しかし、彼女のすすめに従って取り戻した拳銃は結局空砲で、また彼自身も体内に空洞(負傷により開いた肺の穴)を抱えている。取り戻したのは空虚さでしかなく、マッチョイズム(男根主義)を支える男根なんてのは空虚な幻想にすぎない。にもかかわらず「男たち」は生きなければならない。そんな滑稽な現実を引き受けること、そこからしか二人の愛を再出発させることはできないのだと、まあそういうことなのだろう。生は徹頭徹尾、滑稽であると。

では二人の愛を再出発させたとして、それをどう続けていけばよいのだろう。ここでいわれている「愛を証明する二つの方法」のうちのひとつ、「愛する人間を殺す」(死)は、鈴木一真遠山景織子カップルに、「愛する人間と一生を共にする」(生)は主人公の同僚(諏訪太朗)夫婦に両極化されている。だがその両者に欠けている(と主人公が感じるもの)は生のもつ「滑稽さ」、なのだ。その滑稽さを引き受けたとき、はじめて自分は一人の人間として愛する者に「出会う」ことができる。

ならば、監督自身が「引き受けるべき滑稽さ」とは何か、と問うなら、それは氏の本当のデヴュー作品であるエロコメVシネマ作品『教科書にないッ!』ではないかと、私は愚考する次第なのである。どうも監督自身に、この作品をフィルムグラフィーから抹殺したがっている節が見られるのだが、なかなかいい作品じゃないか。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)moot worianne[*]

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