[コメント] ペーパーボーイ 真夏の引力(2012/米)
なんとも濃密で忌々しく殺気だった映画だ。この鬱陶しさは4人の主要人物はもちろん、一瞬、物語をよぎるだけの者まで、すべての登場人物が「人間なら誰もが抱えている歪み」を無遠慮に突出させていることに起因している。リー・ダニエルズの意地悪さの成果。
敏腕記者ウォード(マシュー・マコノヒー)が取材対象者を見据える目は、まるで自らの感情を消滅させて獲物に見入る冷血動物のように人から遊離する。弟のジャック(ザック・エフロン)はモラトリアムの無防備な「ふやけ」をあたりに撒き散らし、無教養な四十女シャーロット(ニコール・キッドマン)は自らを欲望の対象として男たちのまえに、挑発的エロスをこれまた無防備にさらけだす。黒人記者ヤードリー(デヴィッド・オイェロウォ)の秘められた被虐意識は、そんな馬鹿な白人の心の歪みを鼻で笑いながら、かろうじて「優越」を維持しているようだ。
さらに、冒頭に殺害される保安官に始まり、地元の保守社会と一体化しながらジャーナリストを自任する兄弟の父(スコット・グレン)と、その地位と財にまとわりつく恋人エレン(ニーラ・ゴードン)。あらゆるモラルの外側に生息しているような容疑者ヒラリー(ジョン・キューザック)と、その叔父タイリー(ネッド・ベラミー)の抜き身の粗暴さ。ため息をつきながらも、メイドでいられるという状況と、メイドでしかないという黒人の地位を、慣習として受け入れているタイリー(ネッド・ベラミー)の諦観。そしてシャーロット(ニコール・キッドマン)と同居する怠惰な黒人女(『プレシャス』を思い出す)に至るまで・・・。
これだけ徹底して「人間の嫌なところ」を抽出したうえで、サスペンスを語るのだから、とっても素晴らしく気の滅入る「ひと夏」なのである。
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