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[コメント] CURE/キュア(1997/日)

不気味でキュアキュア。
おーい粗茶

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







主人公の刑事は、心を病んだ妻がどこかにいなくなってしまう、あるいは発作的に自殺をしてしまうんではないか、という不安にさいなまれている。彼の恐怖はそこにあり、彼を苦しませ続ける。彼にとっての真の「救済」は、究極、妻を殺してしまうことでしかない。交番のベテラン巡査は、若い同僚の警察官が「いつ、自分をバカにしたような態度をあらわにするか」、いままでの態度が豹変する時がいつくるか、いつくるかが「不安」。平静を装って応診しているが、自分に向けられる男からの「好奇な目」について、自分が意識的であることが、露見しはしないだろうか、自分の抑圧されたコンプレックスに気付かれやしないだろうか?という女医の不安。 近所でも評判の仲のいい夫婦は、その関係が崩れそうになる予感が怖かったのか? 自分もこのままではいつか発狂するかも知れないと自らを手錠で拘束する精神科医…。

主人公のケース以外は、あまりその背景が語られないので、推測になってしまうが、「「不安」はあんたの中にある」と図星をさされたものだけが、伝道師によって「救済」されてしまうのだ。

実際に物理的な危害が今まさに加わるといったようなそういう即物的な恐怖ではなく、自分の内面の奥底にある「怖れ」や「不安」。真底「癒し」を得る為には、そういうものから解放されることが必要だ。が、そういう怖れや不安の種を取り除こうとする時、人は暴力によってそれを排除しようとするのだ。しかもそれは突発的に行われる。そうすることでしか得られない「救済」を否定するなら、人間は恐怖から逃れることはできない。恐怖を克服してはいけない…こんなことが言いたかったのだろうか? 

もっとも映画的には、それらの抑えられていた不安がはじけて起こる突発的な暴力がもたらす「いきなりやってくる死」(監督が愛してやまないやつ)と、その血塗られた惨劇の視覚化こそがホラーとしての売りになっているのだから、逆説的な「救済」のことなんかは、実はどうだっていいようなそれに至るまでの口実に過ぎない、というのがこの作品の弱点かも。それに、恐怖の源泉にせまって、理由を見いだしてしまったら、得体の知れない不安というゾクゾク感はなくなってしまうし。 

サナトリウム(?)に向かう途中のバスが空中を飛んでいるような描写、高部が謎の催眠術師のアジト(?)に向かう際、もやの漂う枯れ木の林の中を進んでいくところを見下ろすカット、そして合わせ鏡のような、高部と間宮の2人。…これはもしか『世にも怪奇な物語』のオマージュか。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)けにろん[*] ぽんしゅう[*]

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