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[コメント] ぼくたちの家族(2013/日)

冒頭は中流マダムのお菓子を召し上がるシーンから。ハワイの話なんかしてどこにでもいそうな女性たち。一人が家に戻る。そこは大層ゴージャスな一戸建て。何の悩みもない人物に見えるが、、。
セント

**ネタバレ注意**
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2時間の映画なんだけど、普通の家庭劇なんだけど、どこにでもあるような身につまされる話なんだけど、とても短く感じ、全く持って退屈なシーンは皆無だった。この題材でラストまで一気というのはすごいことだと思う。観客を画面に集中させるその凝縮力・密度の高さに驚きを隠せないほどだ。

初めて診察を受けてあと一週間の命というくだりはちょっとどうかね、とも思ったがまあそういうこともあるのだろう。(僕の今までの長い経験では皆無だが)それからは家族の喧騒曲が始まる。

夫である長塚京三の、息子を頼る弱々しいところに少々びっくりもしたが、そういう人もいるのだろう。経営者でいて子供のような危うさを持つ微妙な役柄だが、長原はさすがうまく演じている。

原田美枝子も動的なエモーションの中心人物となりこの作品を牽引する。極めつけは二人の兄弟だろう。すべてのことに真剣な兄。くだけた弟。その彼らが家族を想う時、尋常でない力を発揮する。相変わらず妻夫木聡、池松壮亮の達者な演技。見応えがある。

ゴージャスな一戸建てなんだが、家はローンで買ったもの。まだ1200万円も借財がある。父親の会社は赤字続きで破産手続きをした方がまし。当然生活費には回らず何と母親はサラ金で生活を支えている始末。母親の入院費も息子に無理を言う父親。

しかしここでタガが締まり、とにかく母親を助けようと家族が一丸となってその日から駆けずり回る。

ちょっとしたことが、まさに自分だったらどうしようとか、親近感があり気になりだし、他人事ではなくなるんだよね。たいしたことではないのにどんどん自分の胸が重くなって行くその過程はやはりこの映画の持つ強さでもある。しっかりとした演出力、演技力は観客の気持ちを画面の向こうにぐんぐん連れて行く。

石井裕也は「川の底からこんにちは」で映画の突き上げるエネルギーを、「舟を編む」で映画の定石をじっくり描き込んだ。この作品はその2作の昇華作品と言えるのではないだろうか。2時間まさに観客を釘付けにするこの作品はまさにこれぞ映画である。映画の粋である。本年度屈指の作品である。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)けにろん[*]

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