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[コメント] インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌(2013/米)

実は村上春樹原作って言われたら、俺は信じたと思う。
ペペロンチーノ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







私には、それくらい春樹っぽい話に思えた。

金、女、いろんなことが上手くいかない。猫まで失踪する。この世界に自分の居場所がない。親友は死んでしまった。その理由も分からない。ちょっとしたきっかけから遠い場所へ旅立つ。しかし旅の目的は果たせない。明確な変化に出会えたわけでもない。昔の女の住む街を横目で見ながら、自分の中に小さな変化を認める。このままじゃいけない、変わろう。父に会いに行く。ステージでは新しい時代を予感させるような才能ある若者が歌っている。世界はネジで巻かれたように少しずつ動いている・・・。 そう考えれば、井上陽水のような(アクの強い)世界観を歌う主人公が、はしだのりひことシューベルツみたいな曲を聞かされてる時の顔は「やれやれ」と言っているようではないか。

村上春樹の好むアメリカ文学とコーエン兄弟の好む文学とが同種のものなのかもしれない。 例えば「キャッチャー・イン・ザ・ライ」。あるいは「ロング・グッドバイ」。 この映画の“読後感”は「ライ麦畑〜」と似ているように思えるし、ある意味チャンドラー的なハードボイルドにも見える。 この映画は話があってないようなもんで、ストーリーで魅せるのではなく、主人公が置かれた状況下で右往左往する(自分の居場所を探す)物語なのだろう。

主人公はほとんど笑顔を見せず、やたら狭い廊下を歩き、寝場所となるカウチを探し続ける。周囲の人物はどこか気持ち悪いオカシナ人たちで、彼はいつも困ったような顔をしている。 これはコーエン兄弟特有のコメディ描写であると同時に、主人公ルーウィンの目に映る世界なのだ。

回想録が原案だそうだが、インテリ兄弟はそれを私小説として料理した。 万人受けする映画ではない。私小説と同じように、あるいはルーウィン・デイヴィスの歌と同じように。 だが、誰かには響く映画だと思う。 少なくとも私には、オスカー・アイザックの歌声をはじめ、実に見事な映画だった。

(14.06.14 新宿武蔵野館にて鑑賞)

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)jollyjoker[*] ぽんしゅう[*]

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