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[コメント] 甦える大地(1971/日)

役人の視点から鹿島工業団地の主に用地買収を扱った作品。保守的な視点で描かれた茨城農業映画で『黒部の太陽』みたいな開発賛美映画かと思いきや
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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遠雷』や『さらば愛しき大地』と呼応し始める斬新な話法に虚を突かれる。これはすごい。

江戸時代。水戸さまからの工事資金打ち切りで工夫逃げ、大洪水。渡哲也は掘割工事に出資し、その必要を饒舌に説きまくる。工事完成して水門開けたら逆流し、見守っていた人々が水に呑みこまれているのだが、5メートルほども掘られた堀から水がどう溢れたのか描写されない安物でびっくりした。この掘割は序盤の裕次郎の現場解説にあるように地図に名を残している。だから岡田英次の知事が彼を狂人として葬られたと回想するのがなぜだか判らなかった。

時制は現代になり裕次郎は茨城県の役人。やたらの陳情。建設省の三國を接待。トイレで声かけて陳情に難癖つけて逃げるのは接待しろと云っているようなものなんだろう。鹿島臨海工業地帯の計画説明。三つの工業団地と後背地に農業団地で用地は1200万坪。バースの総延長17キロの世界最長の港付。裕次郎は思いを述べる。鹿島は水戸からバスで4時間の僻地。鹿島灘には海と松林と砂しかない。文化がない。生活は砂との闘い。鹿島をこの砂の頚木から解放したいんです。

ヘリで知事の岡田が浜を視察に来たとき、密猟の婆さん北林谷栄は余りにもナイスなタイミングでけ躓く。この辺りで大した映画ではないと高を括らされるものがある。昭和37年、二谷の地元説明会。国の予算が前段の裕次郎―三國で予告されたドラマなしに取れているのは何なのだろう。漁ができなくなると下川辰平が反対すると町長の志村喬は会場出ていけと喧嘩腰。森幹太の親父の「男一匹」という地味な入墨は何なんだろう。その他も裕次郎が職員室で差し出したパンフを反対派の司葉子が差し返したりするなど村人の不満が表出されるなか、試験堤の工事がさっさと始まっている。

村人は大きな樽使って闘鶏をしている。開発組合事務所からバイクに乗った職員が用地買収用務。村民たちに渡されるチラシは再々説明されず、読んでもらえれば判りますと渡すだけなのは何なのだろう。乱暴なトラックに煽られて司葉子は自転車ごと斜面を転がるショットが背後から撮られているのだが、これは本人だろうか、吹替えだろうか。裕次郎が助けて昵懇になるという有りがちな展開。眼がきれいとか云って司は裕次郎の魚釣りデート作戦でコロリと騙されるのだった。関西製鉄(日本製鉄)社長の滝沢修はおみくじが吉なので岡田の知事に進出を依頼する。

途中で志村の町長が寝返り(実際に宴席で寝転がってみせるのが本作のベストショット)。岡田の知事に述べるのは三点、誘致企業を教えて貰えないこと(映画では「関西製鉄」滝沢とすでに擦り合わせている件がある。オープンに入札しないのだろうかと疑問が起こる)、買収単価の低さ(志村は買収が始まって土地単価が上がっていると云う。岡田は当初の単価を云う。よくある対立)、公害(現代科学での最高水準を約束すると岡田は云う)。莚旗が県庁に翻り先頭に寺尾聡、知事が玄関に出て町長への主張を繰り返している。出てくるだけ立派だと思う。建設省の三國が来て企業名公表、補償金名義で土地単価実質値上げで裕次郎は不満。

やくざが不在地主の土地に掘っ立て小屋建てて、裕次郎は巨大重機で破壊、という古の日活アクションがある。「ブレーキの調子が悪くてね」。常陸川のいい土をパイプで農業団地へ輸送するまるまる浜田の発案を裕次郎が実地に移し、農民がこれを見て移転を決めるという展開。移転用地は4割減だがこれなら儲かると喜んでいる。このパイプは現存したらしく大量に映されているが、なんでダンプ運搬じゃ駄目なのかよく判らない。移転先は文化住宅が並ぶ。藁葺農家はショベルに破壊されている。本堤工事から工業団地建設は終盤20分で活写。

さて、ここから突然面白くなる。農業団地傍に経ったスナック「マドンナ」は『さらば愛しき大地』に登場するスナックに余りにもよく似ている。ここで地元に仕事がないと東京に出て行っていた不良娘の城野ゆきはダンス踊りながら「鹿島はよくなったね、昔はイモと南京豆しかなかったのに」と科白を述べる。つまり彼女は東京のスナックから当地のスナックに異動するのだった。

このスナックのマスターは裏口からゴミを大量に山積みに捨て、街道沿いには風俗店が増えてバイクに乗る不良が出没し、夜は喧嘩。「毎晩喧嘩ね」「鹿島名物よ」とスナックのお姐さんの会話聞きながら裕次郎の愚痴。「なぜみんな仕事をしないんだ」農業団地の土地が転売されたのだった。「パチンコやバーも人間の生きる知恵だ。お前の云う緑の楽園より経済的にはるかに有利だと彼等は判断したんだ」と建設省の三國が応える。「しかし開発さえなかったら、彼等は素朴な土を耕すという行為を忘れはしなかった。住民にとってはその方が幸せだったかも(知れない)」今後の対策を立てるのがお前の役目と云いながら三國は東京に帰る。

「鹿島は逆流したんですよ」と冒頭が回顧される。「僕たちはとんでもない化物を作り上げてしまったんじゃないのか」と窓の外の不夜城のようなピンク色の工業団地の煙突(セット)を指さす。「あいつは作り上げた人間の意志に関係なく、日増しに膨らんでいく」「あの真っ赤な火は人間の夢も希望も、大事なもの一切を舐め尽くしてしまうんだ」いったい何をしてしまったのだ、ぼくは失敗したんですよと司に嘆く。「貴方は鹿島から逃げることはできないはずよ」と司は叱咤するのだった。二人はすでに独り者のアパートに上がり込む関係だったのだろうか。ラストは鹿島港開港記念式典と、寺尾の作ったピーマンを手にする裕次郎。

本作、そもそもよく判らないのが、用地買収が農民との関係で語られ続けることで、漁業権を失うだろう漁民との話し合いが全然出てこないことだった。しかしこれは農民に特化した物語ということでいいのだろう。「この映画の登場人物の性格設定は創作です」という字幕が最初に入る。性格以外は実話なのだろう。協賛運輸省、協力茨城県、鶴屋商事、鶴屋産業。原作は木本正次「砂の十字架」。猪又憲吾という脚本家は猪俣公章と関係があるのだろうか。本作の三國は佐藤浩市に激似。裕次郎と浜田光夫の絡みがは新鮮。

なお、翌72年には『鹿島パラダイス』というフランスのドキュメンタリー映画が作成されていて、1973年度のジョルジュ・サドゥール賞というのを受賞している。高度経済成長に沸く1970年代の日本、古式ゆかしい農村が次第に巨大開発に浸食される鹿島臨海工業地帯や三里塚闘争の記録の由(Wiki)。

(評価:★5)

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