[コメント] 風に立つライオン(2015/日)
感傷的な予告編と139分という中途半端に長い上映時間からほぼ絶望的な気持ちで観ることになったのだが、そうした不安が全くの杞憂に終わったことが何よりも嬉しい。基本的にロングショット中心で泣き顔クローズアップはほんのわずかな場面だけであり、一直線の単純な脚本ではなくエピソードは場所も時間もバラバラで断片的に示されていく。北信康の撮影も文句なしに素晴らしい。
**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。
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冒頭大沢たかおが初めて登場する場面で彼は現地民に囲まれながら現れる。もうこの時点で彼があくまで現地民側に近い存在であることが視覚的に示されている。台詞ではなく写真や絵画、おもちゃの銃などの小道具で人物関係や感情を示していく。巻き上がる土埃や群衆の演出も堂に入っている。『スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ』などより遥かに西部劇的である。タイトルに「風」という単語が入っているのに風に関する印象的な演出が見られないことは少々残念ではあるが。舞台がケニアから日本に移ってからしばらくは真木よう子のナレーションがやたらうるさくここで映画がダメになってしまうか少し心配していたのだが次第に演出の調子を取り戻していきむしろケニア編より生き生きとしているようにすら感じさせるようになる。日本編は脇役に至るまで役者が実にいい顔をしているのだ。
島田航一郎(大沢たかお)に関する多くエピソードが語られるが彼がなぜここまで必死に医者として働くのかは最後までよくわからない。一応シュバイツァーの伝記が医者になった動機として呈示されているがそれが彼の人格形成に影響を与えるほど衝撃的なようには描かれてはいない。随分さらっとした感じで流されている。彼が本当に死んだのかどうかすら観客に明確に示されることはない。そんなことよりもただひたすら彼が生きた一瞬一瞬を呈示していく。真実なんてものはわからなくても構わない、その姿勢が好ましい。
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