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[コメント] バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)(2014/米)

プロレスファン故にバルトを愛読し、ティム・バートン版のバットマンを偏愛し、舞台の芝居を好み、仕事に行き詰まるとジャズをかけ、欧米以外の出身者の撮る映画に心ひかれる私の好みのど真ん中の作品で、打ち震えつつ見たが、終盤の収束はまったくもって好みではなかった。
ロープブレーク

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







ワンカットってさ、芝居を見るときの視点だよね。

ということは、ラストは2幕目ってことだろう。

この映画、1幕目はリーガン(マイケル・キートン)を見る観客の視点で描かれ、たぶん2幕目は臨死のリーガンの脳内視点で描かれたものだと思う。←鼻を狙ってぶっ放したんじゃ舞台を壊しちゃうからね。鼻が折れて包帯バードマンになったのは脳内ならではと解釈せざるを得ないと思います。

承認欲求のために舞台に立った男が、その舞台では承認欲求を満たされず(ネットの拡散は彼が求めた承認ではないがゆえに)、しかし楽屋で分かれた妻と、拗れた娘と和解し、なぜにその直後に舞台で自死を選んだのか。

彼はイカロスとなって地に堕ちたバードマンであったが、再びバードマンとして天国に飛翔するために自死し、それを妻に客席で見るよう強制し、臨死の脳では娘がそれを受け入れる様を空想している(ラストシーン)。

これでは、リーガンは彼の自我に最後まで囚われたままだったことになる。自我に囚われて苦しむtale(人生)を生きていた男が、自我に囚われたまま自分は救済されたという新しいtale(物語)に乗り換え、臨終する。

男にとってはハッピーエンドだろうが、俺にとっては糞食らえな結末だった。

ただ、まあ、映画としては5を付ける。音楽が良すぎる。配役から何から良すぎる。前半10くらいの映画だと思ってみていて、ラストで価値が半減した。ゆえに5。満点評価じゃない。その逆だ。まったくもの足りない。

追.上の文章を書いてしまったあと、村上春樹訳というところがかえってそそられなくて読まずにいたレイモンド・カーヴァー『愛について語るときに我々の語ること』を読んでみた。

プーチンがリーガンに思えてきた。プーチンのスラブ民族への思いは、愛情を暴力で表現する自己中DV男の精神構造か。バードマンはソ連だ。リーガンの元女房はロシア系ウクライナ人で、娘は東部2州に見えてきた。マイク(エドワード・ノートン)はアメリカだろう。殺そうとする愛もある、その身勝手な愛が受け入れられないと知った男は愛ゆえに自殺する、そのようにレイモンド・カーヴァーは書いていた。

文学と政治は入リこむと人の倫理を超えたことに思いを馳せてしまう点で麻薬と大差ないのかもしれない。映画は意外と抜けが早い気がする。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)けにろん[*]

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