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[コメント] 嗤う分身(2013/英)

もっと若年の時分に運命的な演出家との出会いを果たせていれば(唯一の可能性は『イカとクジラ』のノア・バームバックでした)、ジェシー・アイゼンバーグは私たちの世代のジャン=ピエール・レオーになれていたかもしれない。そのように悔やまれるほどアイゼンバーグの身体操作は天才的かつユニックだ。
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私の好みから云っても、題材の性質から判断しても、全篇にわたってカメラはもっと引き気味で撮るべきだったと思うが、空間設計や人物造型を含めた全般的な演出の志向はオーソン・ウェルズアキ・カウリスマキを足し合わせたところにあって、その点ではなかなか私の嗜好をくすぐってくるものがある(たとえば、いかにも不吉の気配が漂う集合住宅や、高い天井とひと続きの広大な面積を持つオフィスはウェルズ『審判』で、場違いに響きながらも絶妙にシーンを彩る挿入楽曲の選曲感覚はカウリスマキの影響が大きいと思われます)。とは云い条、この映画の到達点を正確に評価しようと試みるならば、(ウェルズ+カウリスマキ)÷二〇というところがせいぜいだろう。

一方、留保なしにすばらしいと断言できるところがあるとするならば、それはやはりアイゼンバーグその人である。映画史に屹立する情緒不安定芸を惜しげなく披露する『ベルトルッチの分身ピエール・クレマンティと比較しても、その総合力にかけては断然アイゼンバーグに軍配を上げたい。見事に二役を演じ分ける一般的な意味での演技力も恐ろしく高いけれども、彼のほかには不可能だろうと思われる独創的に精緻な所作と表情で役の人格を描き出す才能こそが、上でジャン=ピエール・レオーを引き合いに出した所以にほかならない。

(評価:★4)

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