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[コメント] アベンジャーズ エイジ・オブ・ウルトロン(2015/米)

私の知る限り、ウルトロンがこんなに弱いはずがないんだが。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 トニーがみんなに隠れてもウルトロンを作るに至ったのは、ワンダによってマインドコントロールを受け、未来に対する恐怖心を植え付けられたからとされている。そのため、ロキの杖にあったインフィニティ・ストーンから、地球を守るための武器を作ろうとしているのだが、何故それが人工頭脳でなければならないのかの説明がない。

 それにウルトロンを生み出したモチベーションが、例えば具体的に強大な敵が現れたとか、はたまた純粋な科学的好奇心から来るとかだったらまだ分かるのだが、その大元が“漠然とした不安”からくるため、それを作るというモチベーションが感じられない。結果、ウルトロンという強大な敵が登場する必然性がないので、どうにも締まらない感じ。

 トニーに恐怖心を与えたのはワンダだが、彼女が一体何をしたかったのかも物語に全く描かれてない。未来を見通す力はないので、流石にウルトロンを作るためにこんな事をしたとは思えないので、単にトニーを苦しめるためだけにやったとしても、結果としてトニーは苦しまず、人類の危機を招くだけだった。それに後半になって、何故彼女がトニーを恨むのかが明らかにされるのだが、だったらもっと直接的に苦しめるなり殺すなりという方法を何故取らなかったのか?それもよく分からない。

 結局そんな枝葉末節の部分で躓いてしまったため、物語のバランスが悪く今ひとつ楽しめなかった。

 ただ、本作を構造的に捉えるならば、一定の評価は与えられる。

 スーパーヒーローが登場する映画は近年大変多くなったし、それが大変受けるようになったが、それは単にCGの技術によって格好良いヒーローの姿が観られると言うだけでなく、内容的に優れたものが増えているからである。

 映画に限らないが、あらゆる物語は、それが描かれた時代性を背景とする。そのためどうしても時代性がにじみ出ることになるのだが、それを積極的に用いた作品は観る側に切実性を受け取らせることが出来る。特にSFは荒唐無稽であるが故に現状批判作品が作りやすい。MARVEL作品であれば、『アイアンマン』(2008)では、現実に世界で進められている兵器開発競争が進めばどうなるのかと言う事を正面から捉えていたし、『キャプテン・アメリカ ウィンター・ソルジャー』(2014)も現在の管理社会に対する痛切な皮肉となってもいた。

 そして本作はどうか。先に挙げた2作が良い指標となる。この二つの作品は科学の進歩が人を幸せにするわけではない。むしろいつ殺されるか分からないテロに怯え、そのテロを防ぐために徹底的に管理される窮屈な社会がやってくることを予見させる面白い構造を作っていた。

 その二作品を踏まえた上で本作を観るとなかなか面白い。

 まずここでのトニーは、自らの財力を元にこれまでのS.H.I.E.L.Dに代わる地球防衛組織アベンジャーズを結成している。それは、政治的取引を嫌ったトニーが、自分自身の持つ善意のみで世界を救おうと考えたから。だがその当のトニーが未来に対する漠然とした恐怖を覚えた時、その善意の組織がどう変質するのか。それを実に良く表したのが本作と言えるだろう。結果として彼が一番嫌っているはずの管理社会を自らが作り出そうとしてしまった。平和を求め続けた結果が、結局『キャプテン・アメリカ ウィンター・ソルジャー』と同じ結論に至るというのが皮肉でもある。だからその辺はとても興味深いし、深く考えれば考えるほど楽しくなる。

 だから、物語は今ひとつでも、こう言うところで楽しませてくれるのは嬉しい。もし物語がこの設定を担うだけの強度を兼ね揃えていたら、本作は最強になれたものを…

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (4 人)Orpheus KEI[*] ロープブレーク[*] けにろん[*]

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