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[コメント] 家族はつらいよ(2016/日)

ひょっとしたら、今の日本に一番求められてるジャンルなのかも知れない。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 基本的に前に作った『東京家族』と同じキャスティングで、立場は変わり雰囲気も随分違うが、きちんとはまって物語が作れているところが流石と言うべきか。

 作品としてはどこの過程にでもあるような、傍から観ると他愛ない、それで家族にとってはそれなりに深刻な事態をコミカルに描いて、そつない作りと言っても良い作品で、どんな世代の人でも肩の力を抜いて観られるようなものになっている。

 私自身も、大いに笑うと言うほどではないが、心地良い空間に身を置けたので、気分良く映画館を後に出来た。

 この作品のストーリーラインを眺めつつ、安心して笑うも良し、細かに張り巡らせられた、これまでの数多くの映画のオマージュを探すも良し(平田家はなんであんな急な階段が、しかも下の居間に直結されるように作られているのかというだけでも、これがコメディになってるのが分かるし、「髪結いの亭主め」と言われて怒るシーンなんかも、小説やら映画に親しんでいた人なら分かる笑いも多い)。いろんな楽しみ方ができる。

 ただ、本作を観ていて少々思う事もある。

 かつて映画が娯楽の中心だった時代、数多くの映画が作られていたが、そのかなりのパーセンテージを、ある程度の対象年齢の幅を取ったコメディが多かった。森繁久弥の社長シリーズだとか、クレイジーキャッツを始めとするコメディキャラを用いたナンセンスもの、サラリーマンの現状を描いたペーソスものなど(このタイプは市川崑がとても良い作品を輩出していたものだ)。広義に言うなら小津安二郎のファミリードラマだってコメディの範疇だ。艶笑ものを除けば、コメディは幅広い世代に受け入れられていたし、むしろ大人にしか分からない笑いを使う事によって、二重に笑わせるような笑いもあって、それが映画の幅を広げていたのではないかと思う。

 それがいつの間にやら、映画は若い人の娯楽の対象でしかなくなり、幅を失っていった。その時その時に売れる路線を追求していけば、確かに若い人が対象となるのは当然だが、それを包むように万人受けする作品も作られ続けていなければならなかったのでは?  80年代であれば、年に二回男はつらいよがあったし、それからも松竹が中心となって細々と万人受け用の作品は作られていったものだが、今や一年にどれだけそう言う作品作られてる?探すのが困難なほどに少ない。

 それこそ男はつらいよシリーズを作ってきた監督だからこそ、こう言う映画が必要なんだと主張しているとも思える。

 ふと自分自身の年齢も鑑み、こう言う緩やかなコメディを時々劇場で観てみたいなあ。そんな風に感じるのも事実。

(評価:★3)

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