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[コメント] スター・トレック BEYOND(2016/米)

これは本物のトレッキーにしか書けない脚本だ。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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 多分この作品、さほど一般的な評価は高くはならない。アクションでの演出はそこそこ良いものの、ストーリーが平板だし、石化空中を舞台にしてるのに、メインの物語はどんな作品でも応用が利く地上中心。更に敵の正体があまりにもしょぼくて、かなり肩すかしを覚えてしまう。だからこれは一般的には評価が上がらないはずである。

 …何故敢えて「一般的に」という言葉を多用したかというと、実は本作、特定の人間にとっては、全く評価が変わるからである。そして残念な事に、私もその特定の人間の一端を担ってしまってる。

 さて、このスター・トレックの新三部作だが、それぞれに特徴がある。まず『スター・トレック』(2009)はTV版のオマージュに溢れていて、続く『イントゥ・ダークネス』(2013)は映画版の物語をトレースしたかのようなオマージュに溢れた作品だった。

 そしてこの三作目は一体どんな特徴があるのか。そこが問題になる。そしてそれこそが、トレッキーとしての喜びでもある。

 実は三作目に当たる本作は、テレビシリーズの一本をそのまま映画にしたような物語なのだ。

 前述した通り、本作の出来はあまり良いとは言えない。だが、それらの欠点というのは、全て元々オリジナルTVシリーズが持っていた演出そのものなのである。

  私が観たかったのは、良質なSF作品ではない。「スター・トレック」が観たかったのだ。そしてその願いは本作によって存分に叶えられた。もうそれだけで本作は充分過ぎるほどだ。

 しかも本作の面白いところは、この物語展開がオリジナルシリーズの中でもちゃんと位置づけが見えるところ。

 オリジナルTVシリーズは3期5年にわたって放映されていた。それだけ長くなると、キャラの性格も少し変化が生じてくる。例えばスポックは初期の頃は機械的な発言ばかりをしていたが、どんどん人間味を増していく。それを恥じて敢えて冷静沈着であるということを余計にアピールしようとするのだが、みんなにはもうバレバレで、敢えて温かい目でスポックを眺めているようになる。マッコイも初期の頃の毒舌家ぶりはなりを潜め、カークとスポックの感情面を上手くコントロールして艦長と副艦長の間を取り持つようになる。そして主人公のカークは初期の頃は、それが正しかろうが間違っていようが、果断な判断をしていたが、徐々にその判断に迷うようになっていき、スポックやマッコイの言葉を受け入れるようになっていく。そう言った物語の流れというのがある。

 そして本作では、それらの感情面が一番練れていた最終シリーズの最後半あたりに位置づけされる物語展開となっているのが特徴なのだ。カークもスポックもマッコイも、長く一緒にいて気心が知れた仲であり、その中でお互いが持っている悩みを共有するような関係を既に築いた後の話となる。

 これがどういう事かというと、本作は本当にオリジナルテレビシリーズの完全続編というか、あのテレビシリーズが終わった後、彼らはどんな冒険を続けたのだろう?という、先の物語となっている訳だ(勿論テレビシリーズと本作は時間軸そのものがずれているのだが、『スター・トレック』(2009)のラストシーンで元の世界からやってきたスポックがこの世界の若きスポックに、「カークと一緒にいることが正しい」と言ったことは決して間違っておらず、かれらの冒険はちゃんとオリジナルシリーズに沿ったものとなっているのだということを感じさせる)。

 トレッキーと呼ばれる人にとって、本当に観たかったものってのは、実はまさにそれだと思う。その「本当に観たかった!」と言うものをちゃんと提供できたというだけで、トレッキーにとってはまさしく感涙そのものの作品となるのだ。

 だから本物のトレッキーでなければ書くことが出来ない脚本となるのだが、最後にスタッフロールを観ていて、本当に吹き出した。マジ?これ脚本サイモン・ペッグなの?

 それで本作、チェコフがやたらと個性強かったのか。などと考えてしまった。ペッグ本人にとっても本作は長年暖めてきた夢の企画だったんだろうな。

 なるほど本物のトレッキーJJが降板しても、もう一人とんでもないトレッキーがいたって訳か。なるほど本作がしっくり来る訳だな。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)脚がグンバツの男 YO--CHAN[*] ロープブレーク

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