[コメント] セールスマン(2016/イラン=仏)
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久しぶりの映画館での鑑賞。ファルハディ監督の作品は『別離』しか見たことはありませんが、本作でアカデミー外国語映画賞二度目の受賞。腕は間違いないことの証明ですね。 とは言いつつ私はファルハディ作品がそう好きなわけではないありません。いや、好きなジャンルではあるんですが、見た人にはわかる魅力であり嫌悪感の根源が感じられるからですね。見終わった後の何とも言えない脱力感は相変わらずの作品でした。
本作はある夫婦に起こる悲劇が発端となるミステリーかつヒューマンドラマ。夫のいぬ間に起こった事件によって一体誰が犯人なのか、という事件性にも迫りつつ、一方では二人の関係の少しずつでも明確なズレというものを感じさせている。 それを際立たせるのはイランという町の一家庭を捉えたリアリズムを表現している点。どこにでもありそうな家庭、どこにでもいそうな夫婦だからこそ、観客が引き込まれ感情移入させられる。
旦那は学校では教鞭を取り、生徒からも信頼の厚い博識のある人物像。奥さんと共通の劇団に所属し、「セールスマンの死」の舞台を演じる。 残念なのは「セールスマンの死」を自分が見ておらず、話の流れと並行していく舞台の進行具合がどのような意図を持つか把握できなかった点。 ただ上手かったのは旦那の変化を対比でしっかりと表現していた点。最初生徒から信頼される教師というイメージを持たせてからの事件後の変化。明らかに生徒に当たり散らし、クラスに漂う気まずい空気は前半のそれとは打って変わって心情の変化を表していた。
対比表現で言えば冒頭のシーンは見事だ。今にも崩れんとするアパートから隣人の動けない人を背負って脱出する心優しい男がラストでは全く対称的な変化を見せるのは面白い。
またハッキリ言って胸糞悪い話ではある。というか、「一体どうすべきだったのか。何が正解だったのか。」という感情は誰もが抱くはず。実際自分も感情移入をし、旦那の気持ちは痛いほどよくわかる。その一方で奥さんの曖昧な態度にはむしろ隠された何があるのではないか、と疑ってしまうほどだ。だからラストで絶望し、最後の二人のカットと同じような表現でこの作品を見終えることになるのだ。 そう思うと冒頭のガラスにヒビが入るシーン。何故か印象に残っていたが、家族関係に取り返しのつかない亀裂が入ってしまうことを暗喩していたのだと思うと、冒頭がいかに効果的だったがわかる。
ま、だからこの監督の作品は嫌なんですがね(笑)面白いから見ちゃうんですが、本当に何とも言えない感情にさせてくれます(笑)
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