コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 歌行燈(1943/日)

桁外れの傑作。この映画の中盤の特訓シーン及びラスト・シークェンスを見れば、成瀬巳喜男が孤高の映画作家であり、溝口小津と肩を並べる大監督であるということがよく納得できるはずだ。凄すぎる。
3819695

ところで、映画史上最も凄絶な「勝負」は何か、というあからさまに無益な、そして一見この映画とは何の関係もなさそうな問いをここで立ててみる。映画ファンを自称する者なら、あの西部劇のあのガンファイト、あの時代劇のあの斬り合い、あのスポーツ映画のあの試合、といった具合にいくつかの映画のシーンが頭に浮かぶだろうし、人によってはホラー映画やパニック映画でのモンスターなどとの闘いをまず思い浮かべるかもしれない。また、頭脳戦や心理戦までをも含めれば、その候補の数は一気に膨れ上がるだろう。

まあ、いくら考えたところで決定的な答えなど出るはずのない問いなのだが、私は密かにこう思っている。「映画史上最も凄絶な勝負、それは『歌行燈』序盤における花柳章太郎と按摩村田正雄の勝負ではないか」と。

なにせこの花柳ときたら、村田の謡に拍子をひとつ入れる、ただそれだけのことで村田を殺してしまうのだ。なんという勝負。なんという圧勝。こんなことがありうるなんてほとんど信じられないのだが、しかしそれは実際に私たちの目の前で起こったことだ。『歌行燈』における成瀬の殺人的な演出力は「映画とは奇跡の別名である」と語っている。

(評価:★5)

投票

このコメントを気に入った人達 (1 人)ゑぎ[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。