[コメント] 光りの墓(2015/タイ=英=仏=独=マレーシア)
得体の知れない光を放つ治療機が並ぶ病院は、そこがかつて学校だった時代のなごりが残っている。何世代もの子供が巣立ったであろうその学校は、大むかしラオスの王族の墓だったという。墓、学校、病院。どれも人のエネルギー(光)の盛衰が色濃く表れる場所だ。
各時代のエネルギーが充満した土地を、ひたすら重機で掘り返すタイの軍隊。彼らはどこへ向かい、いったい何をしようとしているのだろう。そんなアピチャッポン・ウィーラセタクンの醒めた問いが聴こえてくる気がした。
ラストショットに込められたメッセージは静かだが強烈だ。ケン(ジャリンパッタラー・ルアンラム)に導かれた“過去の気配”の旅から帰還したジェン(ジェンチラー・ポンパス)は、掘り返された“その土地”でサッカーに興じる子供たちを静かに見つめている。彼女の目は目玉が飛び出るほどかっと見開かれている。
もう目を覚ませ。そして“現実”へ立ち返れと、この「眠り続ける者たち」の映画は警告しているように見えた。
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〈タイの政治情勢に関する私的メモとして〉
2006年頃からタクシン派と反タクシン派との政治的対立が激化。政情不安が続く。
□2006年//////////
・軍事クーデターが発生し民政が停止。タクシン政権が崩壊
・クーデターは国王の介入により収拾
・陸軍大将を首班とする軍事政権が発足
・暫定憲法が公布されスラユットが首相に着任
・議会派間でも反独裁民主戦線(赤シャツ隊)と民主市民連合(黄シャツ隊)が対立
◎『世紀の光』製作 ※ヴェネチア国際映画祭公式出品、ドーヴァル・アジア映画祭グランプリほか ◎『国歌』製作
□2007年////////
・タイ王国憲法が公布され、民政復帰が開始
・12月23日に下院選挙が実施
□2008年///////
・選挙結果を受けクーデターで追われたタクシン派の文民サマックが首相就任
・反タクシン寄りとされる憲法裁判所が司法クーデターを起す
・タクシンの義弟であるソムチャイが首相に就任
・再び憲法裁判所は与党の国民の力党に解党命令。ソムチャイ首相失職
・野党の民主党が総選挙を経ずに政権を獲得、アピシットが首相に
□2009年〜2010年////////////
・タクシン派(赤シャツ隊)を中心とする市民、総選挙を求め大規模なデモ
・アピシット政権はデモを徹底的に弾圧。数百人の犠牲者(暗黒の土曜日)
◎『ブンミおじさんの森』製作 ※カンヌ国際映画祭パルムドール、カイエ・デュ・シネマ・ベストワンほか
□2011年/////////////
・総選挙でタクシン派のタイ貢献党が大勝。妹インラックが首相に就任
□2013年////////////
・約5年ぶりに反タクシン派の武装デモ隊による反政府デモが発生
・年末の総選挙が正常に実施できず
□2014年///////////
・当初、軍はタクシン派と反タクシン派の対立には介入しない姿勢
・憲法裁判所はインラック政権の人事(親族登用)に違憲判断。司法クーデターで首相失職
・一方、普通選挙の廃止や人民議会の設立など反タクシン派の要求も過激化
・国軍がクーデターを決行。インラック前首相や政府高官を拘束
・憲法と議会を廃止し陸軍大将のプラユット首班の軍事政権を樹立
□2015年/////////
・政治改革のため腐敗防止法及び関連法を改正
・腐敗行為は外国人でも死刑。国外逃亡した腐敗行為者の公訴時効延長し20年に
・この時点でタクシン元首相はタイ国外に。インラック元首相は処分保留
以降
・反政府運動を封じのため報道の自由を全面制限
・タイ国内放送局の掌握。BBC/NHK/CNN等、海外衛星放送を切断。SNSの検閲強化
・無期限の夜間外出禁止令をバンコクなどタイ全土で発動(一部観光地は解除)
・首都圏のデモ活動に非常事態宣言の発令
・深南部のイスラム教反政府武装集団と抗争。マレーシアに続く南本線鉄道線路の破壊
・国境線問題でカンボジア軍との睨み合い
◎『光の墓』製作 ※カンヌ映画祭ある視点部門公式出品、アジア太平洋映画祭最優秀作品賞ほか
□2016年///////////
・ラーマ9世の死を経て軍政の新憲法制定が行われたが難航
□2017年//////////
・国王の権限が強化された新憲法が施行
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