某サブスクで「ホラー」と検索すると、目を覆わんばかりのB〜Z級の映画がわんさか出てきます。本作は、まったく自然にこの有象無象に溶け込んでいるので、余程熱心な人か暇人、業界関係者でなければ、これを観ようとはしないでしょう。白石晃士という名前を知っていれば別かもしれませんが。この点、触れる機会を与えてくれたシネスケ（というかレビュアーがペンクロフさんしかいない・・・）に改めて感謝です。

それにしても、私は一体、何を見せられていたのか（笑）

呪術だか都市伝説分析の専門家なる登場人物（吉田悠軌という、本当にオカルト筋の著名人らしいです）が、「存在しないものを存在させる試み」という説明をするシーンがあって、これって「映画」の暗喩だよな、「嘘から実」を作る人の言葉だよな、こういう哲学がある作家はいいよなと思っている前の段階から、止まらなくなっていました。モキュメンタリーという技法がこの哲学に関係しているかはほとんど関係なく、とにかく、もっともらしく、時には、というか、ほとんどもっともらしさをかなぐり捨てて嘘を吐き続ける意志の強さに感銘を受けました。普通は思いつかない嘘だし、思いついても実体化するかはまた別の話で、普通の人はしないでしょう。つまり、この監督は普通の人ではないです。

この話がなんでこんなことに・・・という勢いで、この止まらない感じ知ってるなー、と思い当たったのが、『ツインピークス』でした。果たして、ということではないのですが、某エピソードで、山積みになった映画DVDの中に、ボックスが映り込んでいました。私は『X-ファイル』のリアタイ世代ですが、これは観ていないものの、このへんの目配せもあるのかもしれません。引き出しは相当に多い人でしょう。

何の含蓄も教訓もありません。ただただ面白いです。それがここでのこの人の「実」でしょう。一見の価値ありです。

以下、決定的なネタバレは極力避けますが、各作品の簡易レビュー。

FILE1 口裂け女 ★3 見えそで見えない、或いは見たくないのに突然見えてしまう怖さはあるものの、モキュメンタリーであることに生真面目過ぎる風で、普通の人の普通感もあまりにも素人的でいささかキツい。しかし主人公の造詣（異様な執着と暴力性。「捕獲作戦」て・・・）に引っかかる違和感があり、観続けることにする。

FILE2 震える幽霊 ★4 怖い。夜おトイレが怖くなる程度には怖い。視界が強制されるモキュメンタリーのもどかしさ、怖さがよく活かされ、観たことのない画（え）がある。しかし、異様な顛末。何か雲行きがおかしい。

FILE3 河童 ★4 クライマックスが衝撃的だが、ラストは放りすぎ。それにしても、私は一体、何を見せられているのか？見せられつつあるのか？この男は何者なのか？まさかのクロニクル感が出てやめられなくなってくる。

FILE4 トイレの花子さん ★5 唖然とする。タイトル詐欺。このタイトルで何故、話がこう転がるのか？私は一体、何を見せられているのか？めっちゃ怖いシーンあり。モキュメンタリーでこそ出来る編集の、急激な磁場転換力に戦慄し、脳が追いつかず痺れる。普通のドアが開けられなくなるレベルで怖い。「このおっさん怖くね？」で笑ってからどん底に突き落とされた。台詞回しが硬いが勢いで押し切る。花子の造詣にヒント。この人なりの神話体系ということか。

劇場版序章　四谷怪談 ★4 ひたすら面白い。ド熱い。もちろんあの映画が頭をよぎる。劇場版への期待が否応なしに高まる。

劇場版 ★4 『ブレア・ウィッチ』へのオマージュを最も強く感じるが、結果的には珍作。尺が長くなってダレているのが痛い。しかし、狙っている方向がこちらの想定の斜め上の更に斜め上を行くウッチャリ感で、「私は一体、何を見せられているのか」感が極まる。それにしても、花子さんが劇場版だったら良かったのに、と思う。

最終章 ★4 もはや誰もついてきていないことを楽しんでいる風。更に容赦せず、まさかのあのアニメ監督・・・からの俗なデヴィッド・リンチ・・・からのクローネンバーグ・・・で爆笑。宇野祥平はいい役者ですね。

超FILE1 コックリさん ★3 メタを吹かし始め、人情が強くなり始める。良くない兆候だが、戦略的にはこうならざるを得ないだろうとある意味納得。ジャンルの横断の仕方もパターンが見えてくるのが心配。

超FILE2 蛇女 ★3 予測された方向性。顛末は悪くないが長く、今一つ・・・

それにしても、この映ってはいけないものが映りまくって人死にも出ているビデオが売れて評判になる世界線って一体・・・