[コメント] リズと青い鳥(2018/日)
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冒頭からオーボエがフルートへ向ける思慕、ドキドキの息遣い、のぼせあがった眼差し、むせかえる情欲、重い、重いって! なんというクソめんどくさいメンヘラ女。これが世に言うクレイジーサイコレズか。フルートが表面上はあっけらかんとしたフラットな子なのに対してオーボエの極端な思い詰めっぷりは凄まじい緊張感を生み、だんだん一種のホラーのように見えてくる。あとポルノのようにも見える。
極端にコミュニケーション下手のオーボエは、フルートに依存する以外の生き方を知らない。学校に入ることで映画は始まり、その後もずっと学校で、最後に学校を出ることで映画は終わる。狭い世界の中で狭い視野しかまだ持たず(被写界深度の浅いルックは彼女たちの世界の狭さの表現)、しかし形容しがたい巨大な衝動に突き動かされ、人間関係は容易く煮詰まって感情の吐露はいきおい激しく、抱きしめちゃってゼロ距離射撃。キャー!
美麗作画のときめきメモリアルな世界のようでいて、安定したオッサンのわたくしには思春期の濃厚な地獄としか思えない。誰もが人生の中で一度は体験せねばならぬ若き日の地獄、それが青春なのか。ヤングメンなのか。
オーボエは後輩の相手をしたり絵本「リズと青い鳥」の解釈を経て小さな成長を遂げ、いつしかフルートへの依存から卒業し、別々の道を歩むことを静かに受け入れる。だからまあ一応ホッとする成り行きなんだけど、それでも途中まではオーボエ視点で進んでいた物語が、音大進学の話をきっかけにフルート改めサリエリの動揺する内面にフォーカスを移すあたりはギョギョギョとなりますね。
恐ろしきは山田監督の思いきりだ。プールはカット。コンクールもなし。絵本はたっぷり。オーボエが潜在能力を爆発させて輝くのは音楽室での合奏練習で、これが映画のクライマックスになっている。
それにしても山田尚子監督、2〜3年に1本ぐらいのペースで劇場アニメを作り続けてこれが4本目。作ってきたのは軽音部の女子高生の話、商店街の女子高生の話、聴覚障害の女子高生の話、吹奏楽部の女子高生の話で、すべてがフェティシズム溢れる作風である。中身オッサンかと疑いたくなる。今作で行き着くところに行き着いた感はあるので、次は女子高生以外の作品もお願いしたいと思う次第であります。
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