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[コメント] 喜劇 “夫”売ります!!(1968/日)

伊賀上野の映画。全編こゝを舞台とする。瀬川昌治らしく、町の中心地の大俯瞰から始まる。
ゑぎ

 冒頭、芦屋小雁のナレーションで、地場産業は組み紐と酒造、でも、それぞれ西陣と灘への卸し元であり、伊賀忍者も含めて伊賀上野には、影に隠れる、という特性がある、というような説明がある。この映画、影、日陰者、その暴露と風聞、といったモチーフを基本に作られている。

 主人公はフランキー堺で、町の名門、神代(じんだい)家(及び神代産業)に雇われている運転手。祭りの日、お面を被った姿で登場する。妻は森光子で、神代産業の組み紐製造の内職をしている。ちなみに、この会社も主要事業は組み紐と酒造なのだが、組み紐づくりの場面が何度も出て来て、画面に彩りを添えるのだ。そして神代家の当主は、佐久間良子。フランキーは、限りない憧憬の念をいだいているのだが、実は同級生で、二人が共に級長を務めたこともある仲だ。

 序盤の佐久間はずっとクール・ビューティーで、フランキーに対して厳しくあたる。このまゝツンツンが続くかと思っていると、佐久間が息抜きでフランキーに運転させて、渓谷に出かけた際、かつて小学校の遠足でこゝに来たことがある、その時、橋の上で往復ビンタされた、という話をする。「同じようにして」と命じる佐久間。この時点で、倒錯性がタマランのだけれど、フランキーは震えながら佐久間の頬を撫でるように触るのだ。しかも、これを逢引き中の副支配人−川崎敬三と事務員−橘ますみに見られてしまう、という展開。橘が「運転手の分際で奥様を愛撫してる!」と云うのが可笑しい。

 川崎は、渓谷での目撃と、佐久間に惚れているフランキーの気持ちを見破って、最近、欲求不満ぎみの佐久間の軟化と操縦を図ろうと計略を立てる。すなわち、フランキーを焚きつけて、佐久間の男妾にしようとするのだ。仔細は省くが、川崎がフランキーをその気にさせるために云いくるめる際、奥様だって普通の女子だから「疱瘡の痕」がある、という話をするクダリが、実にいい伏線になる(正確な言葉遣いなら「種痘の痕」だが)。そして、いつもの按摩の代わりということで、佐久間の寝間にフランキーが呼ばれた後のシーケンスが素晴らしい。佐久間の右腕に種痘の後がないことに気が付いて驚くフランキー。自分だけ腕じゃなくて別のところにしたと云う(普通の女子ではないのだ!別のところってどこだろう、と思ってしまう)。佐久間は自分からフランキーの手を握り、抱き寄せるのだが、すぐに我に返り、「汚らわしい!」と云う。そう云われたフランキーが喜ぶという演出。これまた倒錯していてタマランのだ。

 もうひとつ、上のシーケンスと並ぶ見事な場面がある。これが、タイトルの元になっているクダリ、夜勤続きのフランキーが、昼寝の際に、寝言で「奥様!」と云ったことから真実を知る森光子。彼女が夫を50万円で神代家に売りに来るシーケンスだ。こゝは森光子の独壇場で、彼女のコメディエンヌとしての才が弾ける見せ場だし、だからこそだが、この場面までの彼女と打って変わって、とても可愛く見える演出だと思う。そして、その後の(50万円を元手にした)森光子の商才の描き方も実にいい。

 結局、神代産業は、多角化を図ろうと川崎が企画した観光ホテル建設事業の顛末で経営危機をむかえることとなり、フランキーの返品・返金の話が持ち上がる。50万円あれば不渡りを回避できるとなった際に、佐久間がきっぱりと「こゝは人買いの市やない、この人は品物やない」と云い切る潔さに感激する。本作全体を客観的に見れば、下品な艶笑譚、あるいは汚い金の話かも知れないが、こゝぞという場面で登場人物の優しさと潔さが滲み出る演出が瀬川作品の良さだろう。

#備忘でその他の配役等について記述します。

・ナレーションの小雁はフランキーの弟。市役所の戸籍係だ。

・冒頭、小林稔侍がワンシーンのみ登場。二人で歩く男女のことを云いふらす。ウワサを云いふらされた女性の母親は武智豊子

・神代産業の支配人は多々良純で川崎敬三の父親。婆やに浦辺粂子

・フランキーの母親で森光子の姑は安芸秀子だが、この人のガミガミ演技も見事。安芸秀子の友人で珠算教室の先生が田武謙三

・川崎敬三が伊賀上野の観光資源の魅力について、荒木又右衛門の決闘鍵屋の辻、石川五右衛門の家、松尾芭蕉の生家がある、忍者屋敷も残っている、と云う。

・観光ホテルのことを温泉マークと云いふらす(電話する)男は三木のり平

(評価:★4)

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