[コメント] 彼が愛したケーキ職人(2017/イスラエル=独)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
ユダヤ(イスラエル)とそこにやってきたドイツ人。もうこれだけで、一つ物語ができそうなテーマ。それが縦糸。
そこにセクシャリティーのデリケートな愛情をからめた横糸があって、そこにケーキやお菓子という「色づけ」がされた、繊細に織られた映画。
カフェの女主人アナトにとって、一番大切なのは?それは間違いなく「息子」だろう。カフェを営むのは息子のため。それでも送り迎えの人手が間に合わず、義兄の世話になっている。それでもさみしい思いをしていたところへやってくるトーマスに、次第に心を許していく。カフェが繁盛していくと、カフェをすることが「生きがい」になっていく。この時点では、彼女は「見えていることだけで考える人間」だ。
義兄は「弟の家族」を守ろうとしている。そのうえで、ユダヤの慣習に忠実に暮らしていて、アナトたちにもそれを守るように目を光らせている。彼は教えで考える人間だ。
そして義母。この人は「すべて見通している」。妻が気付いていない息子のセクシャリティに気づいていて、さらにトーマスが「息子が愛したケーキ職人」だとも見抜いている。彼女は人の幸せで考える人間なのかな?
ケーキ職人トーマスは、オーレンを愛している。いてもたってもいられずに、イスラエルまで会いに来る。そこで最愛の人の死を知る。そして彼は「愛する人の思い出のカケラ」にしがみつく。カフェで働き、夫の服を裸で抱きしめて、赤い水着は男性の象徴を包み込む。彼の視点でこの映画を見たら、それが愛しくてたまらないんだろうと思うが、ちょっと客観視をすると、かなり怖い行動だ。彼は「理性<衝動」。ハートで考える人間だ。それでもオーレンにかわってアナトと息子を守ろう、愛そうという気持ちが芽生えていたと思う。
そして夫のオーレンなんだが、この映画の中で一つだけ「!?」と思ったシーン。トーマスがカギを頼りに出かけたプール。そのコインロッカーにあったタオル、赤い水着、そして「コンドーム」。コンドーム?プールで?そう考えてトーマスがプールを見回すと、マッチョな監視員だったり、シャワールームでの若い男が目に入る。私にはオーレンはトーマスを愛していたのは間違いないと思う。ただ、トーマス「だけ」愛していたのではないと感じた。トーマスは「No.1」だが「Only One」ではないんだよ。彼は性器で考える人間(と断言してしまった私はゆがんでる?)。あっちこっちで「遊んでる」。そのなかでトーマスと「深い仲」になった、という順序ではないだろうか?
そうなるといちばん気の毒なのはアナトなんだが、彼女はすこし気づくのが遅い。「女の勘」ってもっと鋭いんじゃないかと思うが、それが「男」だとは露も感じてなかったんだろう。私と息子だけ愛してくれていると信じて疑わなかったのかな?。だから告白→ケンカ→事故のきっかけをつくった自分を責めている。さらには、トーマスがここまで自分のために尽くしてくれるのが、「自分に好意を持ってくれているのでは?」と思ってしまっても不思議じゃない。「キス」のシーンでの、傍から見た「温度差」はかなり恐ろしい。
そして「それ」に気づいて、そして義兄がトーマスを叩き出して彼女はまた「ひとり」になるが、もう彼女はひとりじゃなく、自分で家族を守って行ける。「ユダヤの認定」が取り消されても強くなった。それでもドイツのトーマスの店を訪ねたアナト。しかし彼女はトーマスを見送る。このアナトは「衝動<理性」、ハートというより、心で見えたもので考える人間。その彼女は愛した、そして愛してくれたケーキ職人の胸には飛び込まなかった。
わたしは「素直」じゃないから、こんなことになると、あたふたして何も行動できないと思う。面倒なことはみんな人のせいにして、文句ばっかり言いそう。そんな私にはトーマスの行動も、アナトの行動も、義兄モティの行動も、責めることはできない。が、夫の行動だけは私には少しわかるが(汗)、肯定できない。きっといろいろ考えて悩んだのではとおもうが。
とっちらかった感想になってしまったが、「彼が愛したケーキ職人」ではなく、「ケーキ職人が愛した彼ら」の映画だ。
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