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[コメント] 空母いぶき(2019/日)

専守防衛の意見と実践は穏当な防衛論だったが、この実践に空母購入の予算が必要というプロパガンダ臭が漂うのが堪らない。次は敵基地攻撃能力の啓発映画も撮られるのだろう。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
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このような作戦は空母購入が必要、という全通飛行甲板艦導入のプロパガンダの生臭さがある。ここまでは護衛艦でいける、ここからは空母が必要、という線引きをぜひ解説してほしかったところだ。そんな比較解説は流石に劇映画では空々し過ぎたのだろうが。しかし本作の描写では、専守防衛に空母はやり過ぎというこれまでの整理を覆せないのではないのだろうか。

デイスプレイ上の操作連発がすごい(「目標データ入力完了」という掛け声もすごい)。こういうのには予算がかかるんだろうなあ、兆円超えも仕方ないよね、というプロパガンダを含むのだろう。もう空母は実質すでに配備済だし、だいたい集団自衛権だって法制化されている。2021年には自民党で「敵基地攻撃能力保有」が議論されている。なし崩しは進む。

戦闘と戦争の区別(その他ジェット機の構造)など、西島秀俊佐々木蔵之介はいろいろ論争、対決する。実際はこれら想定はさすがに習熟されていて突然のジレンマにはなりようがないだろう。だからこれら議論は観客への研修ビデオみたいに見えてくる。ただ、面白い研修ビデオではある。

有事にあたり、先に撃つな、敵に口実を与え戦線拡大を招く、と軍司令が云い、佐々木も繰り返す。搭乗を志願する飛行士に「復讐は考えるな」と指示が下る。鬼畜米英との差異がある。佐々木は撃墜した敵飛行機のパイロット捜索を命じている。「救出は国際人道法上の決まり」。以下、敵味方の救出描写が重要視されている。こんな件は第二次大戦ものには皆無だ。総理も敵国を追い込むなという指示を出す。艦内で飯食う陽気なやりとりも、飢餓が当然だった第二次大戦までの思想教育は卒業していると自衛隊が云っているのだろう。そんななか、迎撃ミサイル全部命中なんて描写は穏当。ただしこれは既存のイージス艦で可能だろう。

総理の佐藤浩市は外務大臣中村育二にせっ突かれてジレンマをひとり抱えて決断に至っている。ホンバンはアメリカが出てくるのだろう(原田芳雄の総理がワシントンと嫌々叫ぶ『亡国のイージス』のほうがリアルだ)。しかし、本当は総理が抱えるべき判断なんだぜという意味ではよく判る。

戦後日本は幻想などと総理が呟くのは情けない話で、そんな評論家みたいな態度ではなくて、ことここに至らしめた色んな外交の失敗を嘆いてくれないと困る。記者会見で東亜連邦と交渉しているのかという質問に逃げ出してしまっている戯画は命中しているだろう。いったい、政府は中国とどんな交渉が出来ているのだろう。西島に「空母」をおもちゃと云われて云い返せない総理も弱ったものだと思う。

しかしここから、総理は終盤盛り返す。戦後七十年の議論の積み重ねを尊重しようと語り、外相の「戦」なる発言を正す件から立派になる。「自衛隊は戦後の歴史を背負っていま懸命に戦っている。俺たちが舵取りを間違っては駄目だ」という総括は結構なものだった。間違わないでほしいと切望する。国連軍が参戦して個別自衛権の自然権は終わる、という展開は当然。

敵国とされた東亜連邦が新興国なのに民族第一主義という想定は意味不明(原作では中国らしいが、中国は多民族国家で民族主義国家ではない)。国連大使が「野村」と云う名なのは恐ろしい。シニカルな冗談なんだろう。魚雷を避けて取舵いっぱいとかいう描写は第二次大戦ものでも多いが、いまだにやっているのが新鮮。

空母の記者席でコンビニ店長中井貴一のクリスマスメッセージ「世界はひとつ みんなともだちなんだよ」が広げられる。クリスマスでWar Is Over。古のハリウッド映画みたいであるが、天然オヤジは戦いを知らないという皮肉も漂うのが詰まらない。映画はそれこそが云いたかったのだろうが。西島の口の端持ちあげる笑いは知らずに嘲っているようでいい造形。沢崎という外務省局長の吉田栄作の造形は眼鏡から何から河野太郎に似ていて作為的。齢取った斉藤由貴を見るのは辛かった。丸ぽちゃ美人は齢取ると三好栄子さんみたいになってしまう。

(評価:★2)

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