コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 嵐電(2019/日)

本作は、井浦新安部聡子よりも、高校生たちよりも、大西礼芳金井浩人のエピソードだろう。まず、大西の関西弁のセリフが実にいい。そして、初めて読み合わせをする撮影所のシーンで、2人きりになってから、いきなり空気が変わり、真に「映画」の画面になる。
ゑぎ

 これには、涙が溢れそうになった。あるいは、二人で嵐山へ行くシーケンスの、歩きながら、ミュージカルのように読み合わせをするシーン。そして、御室駅でのキスシーン。本作の強く心に残る場面は、多くはこの2人の場面なのだ。

 また、冒頭の夜の電車の待ちポジ画面にオフで入る「終電が終わったね」「僕たちの時間だね」みたいな科白にしても、朝の電車の中、金井が登場する場面で、彼が同じ言葉を繰り返している、「変な人」の感覚も、謎の提示として面白いのだが、これも大西と金井の2人が担っている。

 ただし、井浦新と、妻・安部聡子との電話の場面には驚かされた。数年前に夫婦で京都に来たが、安部が腰を痛めて、お目当ての車両を見られなかったね、というような話を電話でしていると、同じカットで時空を飛び越える。まるでアンゲロプロスみたいな処理なのだ。そして、こゝから、狐と狸の列車の謎へと繋がって行く。

 そして、この狐と狸の夫婦漫才。鈴木卓爾が好きそうな幻想性だが、ちょっと幼稚な感覚は拭えない。対して、ラスト近くの(大西と金井の後日談ということでいいのだろうか)、女性監督(昇進した助監督)による、桂川べり(?)での撮影風景における、先の御室駅でのシーンとの相違、ちょっと異なる科白のスリリングさ、といった現実/非現実の幻惑は見事だ。

(評価:★4)

投票

このコメントを気に入った人達 (1 人)赤い戦車[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。