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[コメント] フェアウェル(2019/米=中国)

優しさのありかたについての物語だ。オークワフィナの不満顔が好い。本当のことを告げられないイライラから異文化アイデンティティのモヤモヤへ。裏にあるのは自身の将来への不甲斐なさ。死別という逃げ場のない深刻な話しなのにユーモアがじわしわ滲みだす。
ぽんしゅう

優しさは誰のためにあるのだろうと考える。もちろん相手のためなのだが、優しさをほどこす自分への自己満足もあったりする。孫娘ビリー(オークワフィナ)の葛藤は、してあげられることと、できることのギャップにあるのだがら。相手がして欲しいと思っていることを勝手におもんばかることすら、本当は傲慢なことなのかもしれない。そんな矛盾や押しつけを、お祖母ちゃん(チャオ・シュウチェン)の、今生きているがゆえのあたりまえの喜怒哀楽が示唆してくれる。

お祖母ちゃんが奔走して盛大に披かれた結婚パーティーが素晴らしい。宴が進行するにつれて、どこか後ろめたさを秘めた一族たちのタガが外れ、最後には祭りの終焉に特有の寂しさに染まっていくさまが秀逸だ。そのとき、この優しい一族は「優しさのありかた」を超越して“生きていること”の充実感に支配されていることだろう。これが、お祖母ちゃんが孫娘に語った「大切なのは生きた実績ではなく、どう生きたかということ」の実践だったことに気づく。一族に優しくない人は、ひとりもいなっかたのだから。

クラシック調の劇判(アレックス・ウェストン)が心地よく、さらに劇中で出演者が歌う歌曲からエンドロールの挿入曲まで気が利いている。公式HPによると監督のルル・ワンはクラシックのピアニストでもあったそうだ。スーザン・ジェイコブスディラン・ニーリーという二人の音楽スーパーバイザーの仕事も大きいのかもしれない。

(評価:★5)

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