[コメント] 私をくいとめて(2020/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
多田をコロッケ屋で初めて見かけた際に、彼が並んでいる行列に並走して自転車を漕ぎ話し続けるみつ子。彼と話し終えてもなお背後が気になりのろのろと自転車を漕ぐみつ子。
堪らん。かわいいが過ぎます。
多田を初めて部屋に呼ぶみつ子の台詞。
「じゃあさ、よかったら、今日、呼ばれる?」「揚げ物したいけど一人前だけ揚げるのちょっとなぁって、ちょうど今思ってたの。だから、わたしも助かる」
完璧な誘い文句。
軽い調子で、しかも言い訳まで女性側がフォローしてくれてる。
しかも、のんが! 可愛いでしょ、可愛すぎるでしょ?
ローマでの多田とのLINEのやりとりで。
「こちらは初めて炊飯器を使ってみました」「ごはんは美味しく炊けましたか?」
その問いに関して多田はスルーし、「スリや変な人に気をつけて! 」 「良い旅を! 」と返信し、みつ子は「グラーツェ」としか返さざるを得なくなり会話は途切れてしまう。
みつ子は「ご飯は美味しく炊けましたか?」に対する返答がなかったことに違和感を覚え、「ただいま日本に戻りました。」というメッセージをなかなか送れずにいる。
細かい。細かいけれどわかりみが深い。説得力があるんです。
誰がご飯を炊いたのか、そばに誰かいるんじゃないか、もう炊き出し要員の自分は必要とされなくなるんじゃないか、というみつ子の先走った思いが痛いほどに伝わってくるんです。
多田とのデートで。
レンタカーで遠出したのはいいけれど、降雪とチェーンがない車の渋滞で返却期限までに車を返せそうにない。
だからホテルのセミダブルの部屋で一泊することになる。
多田に抱き寄せられたみつ子は今までのセクハラ上司、エロ歯科医とのトラウマもあって思わず「違うから!」と彼を拒絶してしまう。
その後の製氷機の前で「おひとりさまの方が気楽で良かった」「多田くんのことは好きだけど距離の詰め方がわかんないよ!」「ここから逃げたいよ!」
心情を吐露するのんの芝居は彼女本来が持っている清純なイメージも相俟って「いまだ処女なんじゃないか?」と嬉しいこちら側の勝手な妄想をも許容する懐の深さを持つこじらせっぷりを見せてくれる。
なんとか脳内Aと決別し部屋に戻るみつ子。
セミダブルのベッドの両端で小さくなって手を繋いで寝ている多田とみつ子。ふたりの姿の可愛いこと可愛いこと。
完璧。
臼田あさ美が演じるノゾミさんも『架空OL日記』の彼女同様、いい感じの頼れる先輩OL感が出てて可愛い。こんな先輩というか同僚がいる職場ってきっと楽しいよね、働きやすいよね、って思わせてくれる。
彼女は、この「一緒にいたらきっと楽しそうな人、友達にひとりは欲しいエロかわいい人」という独自のポジションを確立している気がする。
ローマに移り住んだ皐月(橋本愛)とのシーンは、単なる挿話としてでなく、『あまちゃん』以降いろいろあったけれど、またこうしてふたりで共演できたね!という同窓会的な雰囲気を醸し出しており、思わずふたりまとめて応援したくなってくる。
キャスティングも含めて完璧。
これはのんのために書かれた本で、のんのために作られた映画だと言っても過言ではあるまい。
綿矢りさが「小ネタ満載のこじらせ女子」を書かせたらこんなに面白い本を書ける作家に成長していたことも驚き。
『勝手にふるえてろ』がまぐれではないことを自ら証明してみせたし、今後も彼女の独自路線として「おひとりさま」に共感される作品を書き続けてほしい。
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