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[コメント] ミナリ(2020/米)

いかにも映画芸術科学アカデミー会員が好きそうな、説明的アメリカ映画になっているのではないか、と危惧していたのだが、いや、なかなか曖昧な部分も多い、奥床しい映画だ。
ゑぎ

 男の子のカットから始まる。この冒頭の2台の自動車と、車中の人物の見せ方、窓外の風景の切り取り方で、既にいい感じと思う。母親が子供に、走るなと、しきりに云うのは、母親の性格付けかと思ったが、夜、聴診器をあてるシーンが繋がれて、さほど説明せずとも、心臓に持病がある子だと分からせる見せ方もいい。心臓病では、あからさまなスリルを形成せず、でも、都度都度、胸を意識させる演出を加えてくる。

 お祖母ちゃん・ユン・ヨジョンが登場すると、これが侠気のある面白い人物で、もうこの人の独壇場のようになるが、付言すれば、お祖母ちゃんと男の子の二人の関係(とその変化)が、映画をドライブさせるようになる。本作のタイトルは野菜の芹(せり)を意味するのだが、ほとんど、このお祖母ちゃんのこと、と云っても過言ではなく、主人公は、お父さん・スティーヴン・ユァンやお母さん・ハン・イェリ以上に、お祖母ちゃんと男の子と云うべきだろう。ほとんどの人には通じないことを云うが、花札をするお祖母ちゃんは、『二階の他人』の高橋とよを思い出した(と云ってしまうと、なんだか、山田洋次が映画化しそうな題材だと思えてくる)。

 無粋を承知で、気になった点も書いておくと、水辺の蛇の扱いは中途半端と思う。あと、隣人で農場を手伝ってくれる(雇い人の)ポール−ウィル・パットンも、とても興味深いキャラクターなのだが、彼の住処のシーンを挿入できなかったのだろうか。町や教会と農場との途中のような気がするが、ポールの住居が面白い装置として造型されていれば、映画全体の空間の印象がもっと豊かになっただろう。最後に、スカッとはしないけれども希望の光が見える、というエンディングは、悪くはないが、ダウジング(棒を使っての水脈探知)の扱いは、これでいいのだろうか。ノイズ(よけいなことを考えさせるモノ)だと私は思うが。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)緑雨[*] けにろん[*]

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