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[コメント] ひらいて(2021/日)

開巻は教室の空ショット。後のドアから芋生悠が入ってくる待ちポジだ。席の机の中に封筒を入れる芋生。ちょっと混乱させられたが、この冒頭は、卒業式直前の日のフラッシュフォワードだったのだ。
ゑぎ

 続いてドローン俯瞰の移動撮影で、女子たちがダンスするカット。真ん中で踊るのは山田杏奈。後ろの方で踊っていた芋生が、校舎裏へ歩いて行く。山田が追う。唐突に地面に倒れている芋生のカット。山田がジュースを口移しする。もう倒れているカットの時点で、とても艶めかしい、なかなかパンチのある出だしなのである。

 原作は単行本刊行まもなく読んだので、細部はほとんど忘失しているが、綿矢りさの中でも最も面白かった、と当時思った。読了時点の私の簡単なメモには「一気読みした。ラスト50ページぐらいは理に落ちた感もするが、とは云え、どんどんページをめくってしまう面白さ。それに比喩が美しい」とだけある。やはり、映画との差異など全然ひもとけないのだが、こんな主人公だったっけ?正直云って、この山田杏奈の造型は映画として凄いでしょう!こんな女子高生の主人公の造型ってかつてあっただろうか!

 山田杏奈は一貫してサイコパス。しかもとんでもないサイコパスだ。最初は分からなかったが(階段で、ゴミ箱を放り投げるシーンは、コメディタッチなのかと思った)、夜、学校の教室(3階ぐらい)に、窓から忍び込む辺りで、普通じゃないと分かる。渡り廊下から雨樋を伝わって教室に降りる際に、フワッと飛ぶのだ!魔女か。あるいは、中盤以降の彼女の目力の強さといったら!本作は山田杏奈の目ヂカラの映画だと云いたくなる。

 また、山田杏奈以外の主要キャスト、芋生悠も作間龍斗も、共感性に難はあるが(共感性は志向していないのだろう)、一貫したキャラ造型だし、細部も肌理細かに演出されているのだ。例えば、山田と芋生のカラオケのシーンで、前奏のモニター画面と「あっ」と歌い出しに戸惑う芋生のカットを繋ぐ部分。細かいが、芋生の可愛らしさがよく出ている。こゝまでやる必要のない労力が、ちゃんと奏功している、そんなところに感動する。

 さて、ちょっと気になる点もあげておく。一番不満なのは、たとえ君−作間龍斗の父親役−萩原聖人の存在で、中途半端なノイズしか本作にもたらしていない。これ以上、尺を取ることは許されなかったのだろうが、ならば、全部削っても良かったぐらいだと思う。あと、芋生の家での、山田と芋生の情交シーンで、女性のスキャットの劇伴が入るのは、ちょっとセンスを疑ってしまった。昭和か。劇伴無しの方が絶対によかったと思う。

 ということで、途中で減速する部分はあるのだが、その都度すぐに、盛り返し、ラストもしっかりと決めて来る。山田杏奈の、ラストまでブレない、ぶっ飛んだ高校生像は大したものだと思う。全然タイプは違うが『翔んだカップル』を見たときの驚きを想起した。将来この監督は、もっと凄い傑作を作るかもしれない。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)ぽんしゅう[*]

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