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[コメント] 劇場版 呪術廻戦0(2021/日)

お父さんも中学生のころね、こんなことばっか考えてました!
kiona

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 10歳の次女が妙に興味を示したのがきっかけでテレビ版を一通り見て、鑑賞。その後、この映画の原作となる0巻は読んだが、本編はまだ読んでいない。

 テレビ版を見る限り、「呪い」の根源は人の感情から自然の怨念とあまたあるらしく、ともすれば節操がないようにも映るのだけれど、いじめやスクール・カースト、オタクの怨嗟が吉野順平という少年に生々しく発露していたのを見て、最後まで見てみる気になった。主要キャラクターである呪術高専の生徒たちも、お家や何やらから爪弾きにされたり虐待されたりの子たちばかりで、そういう彼らの仲間意識というのは海賊王のそれなんかに比べたらいくぶん居心地がいいように感じられたのだ。

 本作の主人公である乙骨憂太の物語もまた、クラスメイトに迫られるところから始まるのだが、彼らを早々に缶詰にするあたり、かぐわしき中二病魂がテレビ版よりも全開だ。小学生で結婚誓って、婚約指輪が呪いになって、一途に思い詰めるがまま一緒に逝こう――もうね、、お父さんも中学生のころね、こんなことばっか考えてました! 夏油の口上とか、何万回こういうヤツを見てきたことか……。なぜ見てきたかといえば、踊る中二病に見る中二病だったからであって言い訳も何もないのだけれど、当事者からしてみると系統ごとのテイストは結構重要だったりする。乙骨くんの系統元はシンジくんももちろんあるんでしょうが、『HUNTER×HUNTER』が非常に色濃く滲んでいる。だからこそあわてるんだが、よりによってこれに惹かれちゃうきみ、大丈夫か、、、

 厨二病も世界系も、(しばしば若年の狭い視野に基づく)世界の対象化であって、人間の裏側、社会の闇、現実の残酷を(直感的かつ主観的に)定義しながら、それに拮抗する存在として自身をとらえ、報われないとか報われたいとか、慰めることだ。それがお子様ランチからの脱却であると信じられた時分が、自分にも(かなり長〜い間)あった。少年ジャンプにあっては、冨樫義博という作家が『幽遊白書』という作品の後半から突然それを我々に打ち始めた。売人みたいなもんで、売人だからしょっちゅういなくなる。やがて中毒者は禁断症状に陥り、一部は新たな売人となって同系統のキノコを培養してくれる――早い話が芥見先生もそのひとりのように思える。

 なおも『HUNTER×HUNTER』の話で恐縮なのだが、かの作品にあって作者が売人なりの心胆を示したのは「キメラアント編」だったと勝手に思っている。主人公たちに背負わせられない物語を蟻の王と盲目の少女に託して成就させたくだりを見て、自分は満足し、ようやくジャンプを卒業した。以降、『HUNTER×HUNTER』にもジャンプにも一度も手を触れてこなかった。そんなことさえすっかり忘れて、うっかり次女と映画館にまで足を運んでしまっていたよ。

 この映画、『呪術廻戦0』、覚悟のほどは残念ながら強靱とは思えない。ふたりが一途に思い詰めるがまま一緒に逝こう――はいいのだが、主要キャラクターの誰かが物語の本気を請け負って退場するようなこともない。五条先生なんか言い訳しかしてない。テロも八百長なら、テロの首謀者を言い訳先生が逃がしてしまう甘さには正直がっかりした。テレビ版が先に続くのだからそもそも予定調和、なんてことは知ったこっちゃないのだ。乙骨くんの呪いはどこに向けられるべきか、という話だ。君が呪うのは、そのへなちょこテロリストでなくて、愛しのリカちゃんを奪ったこの現実社会のクソみたいな側面であるはずで、むしろそのへなちょこテロリストはおまえを映し出している鏡なんだ。そこをスルーしてどうする。高専のにわか友達の心配など置いておけ。せめて敵対する相手が「この下劣な化け物が」とか言ってリカちゃんをしばくならまだ分かる。しばかれたリカちゃんのために怒りの闇落ち覚醒とか、そっちの方がよほど燃えるやんか。なんか色々間違えてる。純愛とか自分で言っちゃダメ絶対! とかとか、オッサンは思っちゃうんだよな。

 ただ、その後、原作である0巻を読んだところ、上記はあまり気にならなかった。乙骨は当初、呪いの被害者、真希が言うところの「被害者ヅラ」で自覚がなかった。呪いのせいで居場所がなくて、自殺志願しながらも、居場所を渇望していたから、彼にとって高専と真希たちは守るべき存在であり、それを壊そうとした夏油はまあ憎むべき相手として違和感がない。作品としてそこまで大きな熱量は感じられなかった一方で、中二病やら世界系やらとくくる必要もない、これから売りだそうという新人のそれとして申し分ない、良くも悪くもジャンプの漫画という印象だ。漫画の時間と映画の時間は大いに違う。漫画を読む時間は閉鎖的で、絵やコマ割りが理屈を越えて流し込んでくる作者の感覚に寄り添いやすいのだが、これが映像、映画になると同じ物語を社会性を伴った感覚で見ることになり、なんなら共感性羞恥をも覚えて、とたんに飲めなくなるのだ。

 ともあれ、このリカちゃんの設定は好物なアレ。わたくしの性根にそれこそ触手のごとく絡まっている『ゴジラVSビオランテ』という映画があって、ビオランテとは薔薇とゴジラと女性の融合体なんだけど、まあこのリカちゃんもそんなようなもんだ。ビオランテがゴジラ細胞から造られたように、リカを特級呪物に変えたのも乙骨くん自身だったと落ちがつく。キメラ、フランケンシュタインの花嫁、内なる闇、自身の負から出た脅威、行き過ぎた愛情が死から呼び戻した折に帰ってくる姿の醜さ、ともすれば独り相撲の物語。あっ……ビオランテになる女性はエリカだったから、名前まで通じるものがあるな。エリカは最後、黄色い光に包まれて昇天していくんだけど、そこら辺もそっくりだな。この痛いエモ描写を知らず知らずのうちに受け継いでしまう遺伝子もあるんだ、困ったことに。。  などと映画館を出て歩きながらつらつら考えていたのだが、うーむ、この子にはどこからどこまで話せばいいのやら……沢口靖子がゴジラとまざる話までしてもな……いや、そもそも父親なら、こういう風にならないようにまっとうな方向に押し返すことを考えるべきではないのか? まったく、こんなの映画館で見せちゃったけど、とりあえずきみはどう思ったの……?

「ああ、おもしろかった! でも……話はひとつもわからんかった!」

 ええっ……そっ……そもそも呪術廻戦の、どこがそんなに好きなの?

「パンダと狗巻! しゃけえ! おかかぁ!!」

 じっ……次女の勝ちィィイ……!

(評価:★4)

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