[コメント] 三度目の、正直(2021/日)
我ながらミーハーだが、あの映画のファンには、たまらない作品だ。ワタクシ的には、川村りらの出演作をもっと見たいと、ずっと思ってきて、だからこそ本作を初日に見に行ったのだが、まさか主要人物が、ほゞ『ハッピーアワー』の出演者で演じられているとは、思ってもみなかったのだ(失礼ながら、川村りらの名前しか覚えていなかったのです)。そして、『ハッピーアワー』出演者以外での本作の主要キャスト、ラッパーの毅(ツヨシ)役、小林勝行がまた素晴らしいのだ。
確かに、全編に亘る会話シーンの繊細な照明と、スリリングな切り返しには、ゾクゾクしながら画面を凝視させ続ける力がある。あるいは、川村りらが、里親募集のビル広告を電車の中から見る場面での、電車の窓外からの切り返しだとか、公園で倒れている青年−川村知をいきなり真俯瞰でとらえる視点移動だとか、とてもキャッチーな、映画的な繋ぎもある。なぜか、この青年の父親と名乗る男−三浦博之の場面だけ、2回ほど、正面バストショットの切り返しが挟まれて、あ、濱口みたい、と思わせられもする。
だが、やっぱり、決定的にこの映画の恐るべき強さは、終盤の毅−小林勝行によるライブ場面の圧倒的迫力と、その後の、彼とその妻(美香子)−出村弘美との車中での会話シーンだ。百歩譲って、ライブ会場のシーンについては、凄いけれど他の映画でもありそうな演出と云えるかもしれないが、車中の会話シーンは、こんなの見たことない、という常軌を逸したシーンじゃないか。美香子の精神の破綻も強烈だが、毅がラップのリズムに乗って会話するというのは、全く異常だ。この後、この二人が出てこないのも、何という厳しい突き放しだろう。実は、川村りらのキャラも尋常じゃないし、彼女と青年−川村知との関係も、負けず劣らずの厳しさで描かれているのだが、毅と美香子の車中の強烈な会話シーンで、ほとんど他のシーンが吹っ飛んでしまった。少なくも私にとって、このレベルの興奮度は滅多にあるものではない。
尚、録音部の問題なのか分からないが、科白が聞き取れないぐらい小さな音量レベルの会話シーンがあった。ワザととは思えないので、改善の余地があるだろう。しかし、そんな瑕疵はゴク些細なことに思える作品だ。
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