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[コメント] メタモルフォーゼの縁側(2022/日)

アバンタイトル、ファーストカットは信号待ちをする宮本信子。しかし、タイトルインは芦田愛菜のアップショットだ。全くもって、この二人のダブル主演だ。
ゑぎ

 全体にカメラの動き、画角の選択の品が良く、固定とゆったりとした移動撮影が気持ちいいのだが、宮本と芦田の品の良さに合わせたカメラワークだとも思われる。特に、宮本の可愛らしいお婆ちゃんの造型、科白回しが素晴らしい。また挿入される漫画の画面の動かし方も品がいい。

 ただし、挿入される漫画、とくにコメダ優の漫画自体は、私は余り魅力を感じなかった。劇中で宮本と芦田がめっちゃ感激する描写は、それはその体(てい)ということで見て問題はなかったが。でも、芦田が描いた(という体の)漫画には魅かれた。よくこんな無垢な漫画が描けたものだと思いながら見た。

 さて、芦田に関するプロットで本作の特徴的な(良い)事柄は、学校でも家族でも、対立する人物が存在しない、という点だろう。例えば、芦田にとってエリちゃん(留学を希望している同級生)−汐谷友希は、自分とは正反対に思えるキャラクターだが、エリちゃん側は、芦田のことをほとんど何とも思っていない。よくある学園モノのように、イケズなことをするようなキャラにはならないのだ。あるいは、芦田のお母さん−伊東妙子も、極めてマイペース。幼馴染のツムギ−高橋恭平は、よき理解者。ツムギが芦田の部屋に来て、漫画を読み、芦田の嗜好を知ってしまう場面があるが、こゝから、情報が拡散してしまうような、嫌な展開になるのか、と一瞬予想したが、これもそうはならないのだ。けれど、ツムギを通じて、エリちゃんがBLに興味を持つ展開に持っていくというのがクレバーなところだろう。オープンなエリちゃん。エリちゃんの個性と影響力で、皆にすんなり受け入れられる。芦田は「ずるい」とモノローグ。でも「ずるいのは自分」という内省に繋げる。なかなか捻った作劇だと思う。

 そして、コメダ優−古川琴音の扱いについて。唐突に登場した古川のクロスカッティングに少々違和感を覚えたのだが、さて、どう芦田や宮本と交叉させるのか、ということが、本作を見進めるテーマ(そのことをずっと意識しながら見ること)となる。これに関しては、なかなか鮮やかな交叉の描写で満足したのだが、終盤の『ローマの休日』的趣向は、もっとやり方があったんじゃないか、と思った。ちょっと物足りなかった。古川の見せ方は、いっそ宮本との遭遇場面で初登場とし、この時点では、我々観客にとっても、ただの通りすがりの人、というかたちでも良かったんじゃないかとも思った。

(評価:★3)

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