[コメント] イントロダクション(2020/韓国)
ファーストショットは、男性が机に向かって頭を抱えて、懺悔するような科白を吐くショット。やゝあって白衣を着るので、お医者さんだと分かる。続いて、ヨンホが、恋人のジュウォン−パク・ミソと共に登場し、彼女を待たせて、一人医院へ入る。冒頭の男性は、主人公ヨンホのお父さんで、ヨンホはお父さんに呼び出されたのだ。しかし、急な訪問者(患者)−有名な舞台俳優−キ・ジュボンもおり、お父さんになかなか会えない。結局、ヨンホと父親との会話場面(ヨンホと舞台俳優との会話もあったらしい)は、ほゞ描かれず、この一つ目の挿話では、もっぱら、医院の受付の女性(昔からヨンホをよく知っているよう)との邂逅の場面が描かれるのだ。この何とも人を食ったプロットの切り取りは、ホン・サンスらしい。しかし、ヨンホが、雪降る病院玄関前で、煙草を喫っているショットが、見事な雪の造型で驚かされるし、こゝでの受付の女性とのハグ及び会話は非常に周到な演出だと思う。
二つ目の挿話は、ヨンホの恋人−ジュウォンがメイン。彼女と母親−ソ・ヨンファが道を歩いて来る。画面右上を見て、木に枝が集められている、と云うのだが、このシーンで木の画面は映らない、というのもイケズな編集だ(後のシーンで映る)。この挿話は、ジュウォンが母親の知人でドイツ在住の画家−キム・ミニの家にやっかいになる、その初日の場面だ。三人で散歩をしている最中に、韓国から、恋人のヨンホがやって来た、という知らせが入る。急に会いに行くと云うジュウォン。キム・ミニは、ほんの脇役に過ぎないが、若い恋人たちのことを「衝動的な方が生きていると感じる」と評する印象的な科白がある。ジュウォンとヨンホはドイツの街角でハグをする。
三話目は、ドイツの場面から数年後。一話目の舞台俳優と女性がレストランで食事をしている。息子も呼んでいる、と云う女性。これがヨンホのお母さん−チョ・ユニ。俳優になるのを勧めたのだから、あたなにも責任がある、と云う。ヨンホは車で男友達と二人で来る。浜辺の側のレストラン。ヨンホは、俳優をやめた理由を問いただされ、キスシーンが、付き合っている彼女に悪いから。本当に思っていない人とは抱き合えない、という主旨の返答をする。声を荒げる舞台俳優。抱き合うことは愛だ!と云うが、感情的になっているだけで、よく分からない主張だ。勿論、よく分からないところが面白いとも云えるし、同時に、いきなり怒鳴る演出に嫌悪もする。そして、車にズームイン。こゝから見せられる展開が本作の一番捻った部分だが、ネタバレになるので割愛しよう。ラスト近く、冬の海に入るヨンホ。私は自殺するのではないかとヒヤヒヤしたが、浜に戻り、服を着て、友達がハグのようにして暖めてくれる。
このように三つの挿話で、それぞれにハグする、抱き合う、という所作が描かれているのがポイントであり、ヨンホの言動の整合が微妙にとれていないところも感慨深い。尚、カメラワークは、相変わらず長回しの切り返し無しだが、ズームの使い方が、ゆったりとし、常識的になった(前作ぐらいから変化している)。かつてのようなヘンテコズームが無くなり、ある意味寂しい。
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