[コメント] コンパートメントNo.6(2021/フィンランド=露=独=エストニア)
本作はモスクワからムルマンスクという極北の土地への旅を描いた映画。冒頭はモスクワのアパートでのパーティシーンから始まる。出発前夜。主人公は、ラウラ。フィンランド人の考古学専攻の大学生というが、30代ぐらいに見える。パートナーのイリーナは大学教授。本当は二人でムルマンスクへ行く予定だったが、イリーナには他の仕事が入り、ラウラ一人で行くことになったという状況だ。このパーティシーンは、留学生として疎外感を感じているラウラのキャラクターを印象付ける。と同時に、知的なモスクワの生活を強調して見せる部分でもある。彼女の旅の目的はペトログリフという岩に書かれた絵を見に行くことだ。
列車の同じコンパートメントに乗り合わせた男はリョーハ。彼の旅は、ムルマンスクの炭鉱で働くため。見るからにコワモテ(というかヤンチャな感じ)で、酒ばかり飲む。多分二人で使うべきテーブルを一人で乱雑に使っている。あげく、酔ったリョーハは、ラウラに売春婦か?という冗談。これには流石にラウラも切れる。同乗している鉄道員(女性)に、あのコンパートメントでは寝られない、と云いにいくが、取り合ってくれない。といった序盤では、どうなることかと思わせられる。この始まりから作劇として良く出来ている。
また、列車の外観ショットが一切なく、車内の場面と車窓の景色で移動シーンを演出しているのが特徴だ。唐突に走る列車から撮られた線路のショットが繋がれる部分もある。これがとても粒子の粗い画面なのでアレっと思っていると、ラウラは一昔前の大きなハンディビデオカメラを持っていて、彼女が写したビデオ映像だと分かる。度々このビデオカメラを通したミタメショットが挿入されることが、良いアクセントになる、という面も、よく考えられている。さらに、このビデオカメラが途中で使われなくなる事件があるのもいい。尚、本作の時代背景は映画内で明示されていないと思うのだが、ビデオカメラの形状から20年以上前のお話であることが分かる(あと、ウォークマンも出て来る)。
そして本作の面白さの肝は、やはりリョーハという男の造型にあると私は思う。列車が途中の駅に一晩停車する際、ラウラがリョーハの知人の家に、車で連れて行かれる、という場面がある。こゝこそイヤな怖い展開にならないか心配したのだが、結果的に知人はとても優しい人で、リョーハも案外いい奴なのだと見る目が変わるのだ(それは、ラウラも我々観客もだ)。リョーハは粗野な労働者で、ちょっとしたことで機嫌をそこねるし、我がままなところも多いのだが、反面、ウブな部分や優しい心根も垣間見せるのだ。私は次第にラウラよりも断然リョーハの方が可愛らしく見えて来た。
さて、当然ながら、終盤は、ラウラがペトログリフを見る、という場面に行きつくのだが、これがそう簡単にはことが進まない、ということだけ書いておこう。さらに、ペトログリフをどう画面で見せるか、という点も、仔細に書くのはネタバレになるのではないか、という見せ方だ。実を云うと、私はこのエンディングは予想していなかったもので、ペトログリフの場面からラストにいたる、演出の畳み掛けはなかなか大したものだと思う。特に、極北の地を画面へ定着する演出。カンヌが評価したこともうなずける。
(評価:)
投票
| このコメントを気に入った人達 (2 人) | [*] |
コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。