[コメント] ボーンズ アンド オール(2022/伊=米)
良く言えば自由闊達と云えるが、不統一で未整理な感覚も持つ。それは、撮影というよりも、編集の所為かも知れない。全編に亘って、随所で普通よりも短いショットを挿入していたり、ノイジーなショットをワザと残していたり。そこがこの映画の意外性のあるところ、面白い部分でもあるのだが。
何の前触れもなくショックシーンやスリリングなシーンを繰り出していく演出も良く出来ているし、ラストまで全く緊張感を途切れさせないテンションの持続に繋がっている。最初に女子会のシーンで、マレンがまったりと寝そべって、同級生の女の子と会話している際に、いきなり相手の指に噛みつく見せ方。さらに血だらけで帰宅した彼女を見たお父さんが「またやったのか」と云う展開なんて、予想外でいいのだ。
また、本作は終盤までマレンの実母を捜す、ヴァージニアからミネソタへの旅が描かれるロードムービーだ。その大部分が、途中のメリーランドで知り合った同族(イーター)のリー−ティモシー・シャラメとの旅。シャラメが人を襲う場面は2回あり、『夜の人々』や『俺たちに明日はない』や『地獄の逃避行』みたいな犯罪映画要素も少しはあるが、そこにはフォーカスせず(警官は一回も出てこない)、どうしても押さえられない衝動とそんな自己に対する葛藤が中心に描かれている。言葉を換えると、マイノリティとしての存在にフォーカスされていると云え、リアルな社会的少数者の象徴という見方ができると思うが、これにより、映画らしい活劇性は犠牲になっていると私は思う。
ただし、旅の途中で出会う同族のサリー−マーク・ライランスや、ジェイク−マイケル・スタールバーグとの場面がとびっきりスリリングな演出だ。サリーの場面だと、瀕死の老婆がいる家の階段を上りながら、匂いに関する会話をするシーンが好きだ。スープの中のビネガーみたい、という科白。「匂い」は本作の中ではとても重要な要素になる。そして、ジェイク−スタールバーグはワンシーンしか出て来ないが、そのぶっ飛んだ造型も特筆に値するだろう。彼が「骨まで食べる」ことでステージが変わるみたいなことを云う。これがラスト前にも繰り返される、タイトルの意味だ。あとの演者では、マレンの祖母役ジェシカ・ハーパーのずっと不機嫌な対応や、満を持して登場する母親−クロエ・セヴィニーの鬼気迫る造型も凄い。
さらに、本作はマレンとリーのピュアな恋愛譚でもあるのだが、二人がキスする度に、ハグする度に、もう何とも云えないスリルが生まれるという点も緊張感の醸成という意味では大きいだろう。いや、スリルと共に、とても切ない情感が生まれているというべきか。ラストの荒野の中の2人のショットはフラッシュバックだろうか。この荒野の夕暮れのシーンはとても美しい、優れた撮影のシーンだ。
(評価:
)投票
このコメントを気に入った人達 (2 人) |
コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。