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[コメント] PERFECT DAYS(2023/日=独)

世は並べて事もなし。上を向いて歩こう。
ペペロンチーノ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







劇中、「世界は一つじゃない」的な話が出てきますが、このシンプルな話も多面的な捉え方ができるでしょう。少なくとも私は4つの物語に切り取れるように思います。

まずヴェンダース的な側面。ヴェンダース作品はあまり観ていないので偉そうなことは言えませんが、彼の作品は「消えた者を探す物語」が多いように思うのです。そしてこの映画は、終盤に麻生祐未の登場で、一気に「消えた者側の物語」であったことが明かされるのです。

ついでに言うと、役所広司が住んでいるのは浅草やスカイツリーの近く、東京の下町ですね。勤務先は渋谷です。そして、麻生祐未の手土産が「クルミッ子」だったとウチのヨメが言うんですね。つまり彼女は鎌倉辺りから来たんだと。言い換えれば、役所広司の出身地は鎌倉辺りの出だということです。推測込みですが、よくできた土地勘設定です。

もう一つは「世は並べて事もなし」の物語。私の(あやふやな)記憶では、冒頭のタイトルバックとラストは同じ「街の俯瞰」ショットだったように思います(違ったかな?)。その画面を観て、私はふとロバート・ブラウニングの「春の|朝《あした》」の一節を思い出したのです。

God's in his heaven, All's right with the world!(神は天にいまし、世は並べて事もなし)

高畑勲「赤毛のアン」のラストに引用されエヴァ「NERV」マークにも書かれているこの言葉。私はこの映画のテーマのような気がしたのです。役所広司が「上を向く(天を見る)」シーンが多かったですね。そういうことも含めて、何か前向きな印相を受けます。

3つめの切り取りは、『東京画』とは異なるヴェンダース的『東京物語』という視点。元は渋谷区公共トイレ刷新企画のPR動画が発端だったそうですが、ヴェンダースの「小津好き」と「ドキュメンタリー好き」の一面が垣間見えると思っています。この無口さは「小津」のそれですよ。そして、役者を使ってドキュメンタリー風に仕上げる手口。

4つめは「BOSS」のスピンオフドラマ。いつトミー・リー・ジョーンズが出てきてもおかしくない。

(2023.12.26 kino cinema新宿にて鑑賞)

(評価:★4)

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