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[コメント] 笑いのカイブツ(2023/日)

道頓堀川の岸辺の歩道を歩く岡山天音。ストップモーションを数回、横顔のアップも。タイトルは、テレビモニターに大きめの文字で入る。それが、スプリットスクリーンで増殖するイメージ処理。
ゑぎ

 タイトル開けは、夜、団地の部屋の中。パンツ一丁の岡山。窓の外は雨。土砂降り。部屋の壁に頭を打ちつける。壁は凹んでいる。パンツ一丁および、壁の穴は終盤にいたるまで何度も繰り返し見せられる。

 しかし、こんな題材なのに、全編ほとんどハンディカメラ撮影は無し。小さなパン、ティルトも三脚などに載せたカメラと思われる滑らかな動きだ。ゆったりとしたドリー寄りや上昇移動などは要所でのみ挿入される。終盤の、ベーコンズの単独ライブを劇場後方から、ゆっくり寄っていくドリー前進移動が顕著だ(常套とも思うが)。

 というワケで、画面造型と演技・演出は面白かった。対して、大喜利や、ネタのスクリプト自体、あるいは、画面にスーパーインポーズされるQAなどは、悉く、イマイチ面白いと思えなかった。ネタを生み出す苦しさ、その凄絶な描写を見ているから、ということもあるだろう。全編息が詰まる思いがする。

 岡山のバイト場面は、ネタのことしか頭になく、仕事をしくじることの連続で、最初は京橋辺りの寝屋川沿いで運送屋か。他には飲食店の皿洗い、スーパーの棚整理、カラオケ、ホスト見習い等。こゝで、酒に弱いことが描かれており、菅田将暉と知り合う。ホストの後は、菅田が店長?のバー。朝、店の前で、菅田とその女と別れるシーンの画面もいい。東京へ行ってからのバイト場面は割愛される。また、岡山がいつも水一杯で(たまにポテトフライだけ買って)ネタを考え続けているフードコートでバイトしている松本穂香。本作の(大阪弁の)菅田と松本はこれ以上ない適役だ。

 さらに、実は画面の調子は東京へ行ってからの方が良くなったと感じた。何よりも仲野太賀のキャラが画面に安定をもたらす、と云うか、仲野と岡山のコミュニケーションが肩舐め切り返しで見せられるのが効いているのだ。また、ベーコンズのもう一人、板橋駿谷の人格が全く描かれないという編集の選択もいいと思う。漫才シーンは、2人の演者のポテンシャルがよく分かる(それでも、やっぱり、笑えなかったけれど)。

 終盤でアバンタイトルの時間(道頓堀川の岸辺の場面)に戻り暗転し、これでエンドかと思ったが、片岡礼子おかんのシーンが来る。ちょっと気持ち悪いエンディングのパターンかとがっかりしかけたのだが(あくまで私の好みです)、しかし、一ひねりひねって終わってくれた。これは良かった。

(評価:★3)

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