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[コメント] 哀れなるものたち(2023/英)

見た目以上にフランケンシュタインの威を借りているところがある。ウィレム・デフォーが出ていなければ成立しないとさえ思える。
kiona

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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貧困にあえぐ他民族を豪華客船から見下ろして涙するシークエンスのインスタントな感触には、『フィフス・エレメント』のミラ・ジョボビッチが「戦争」ググって世界を勉強しましたに通じるものを感じた。いやいやこれは筋を転がすための確信犯ですよとでも言いたげにすぐに引っ込めるのだが、個人的にはここでかなり萎えてしまった。カラーもアングルもこれ見よがしな一方で、色物には見られたくない願望がそこかしこで鼻をつく。エマ・ストーンのサイボット演技も、ぜんぜん良いと思えない。何というか、フランケンシュタインに、嫌われ松子を掛け合わせたような話だなんて思ったが、そういえば『嫌われ松子の一生』は現場の鬼畜葛藤が色濃く滲み出ていたもんだから今なお思い出す。一方こちらの映画は、自分は忘れてしまう気がしている。体当たり演技と言ったって、逆に濡れ場しかやってないとさえ言いたくなる。このネタであればもっとやばくて自由なアレがいくらでも思いつきそうなのだが、娼館にご就職なんてレ・ミゼラブルのパロディみたいに小ぎれいだ。まあ変態路線のつもりはないのだろう。もちろんダークゾーンに行く必要は必ずしもないのだけれど、しかし、それなら何で即座にセックスに流れていくのだろう。これは子供の脳だったはずで、それならまず太陽とか冒険とかクリスマスとか黒いブーツとか、いろいろあるでしょうに。箱詰めにされて気が付くと船上にいたシークエンスなどすごい違和感があって、ふたが開いて周囲が海だったら、子供心は恐怖かワクワクのどちらかに振り切るのではないか。しかし彼女は、あっさり閉じ込められたことを理解しちゃう。そこは大人なのだ。時系列的にはイギリスからスペインに渡った時点ですでに船は経験しているはずだから、乗船は二度目で感動の余地もない、ここは酸いも甘い吸い尽くしたバアちゃんと共鳴するところ、という言い訳が成り立つのだけれど、世界、体験、冒険を謳いながら何で初めて海を見たりするところとかやらないのだろう? 至極乱暴な言い方をすれば、結局は作家が「女はセックスに行く」と決めつけているからなのではないか。娼館は通過儀礼にすぎず、そのあとがあるのだから女性賛歌と見ることもできなくはないのだが、どうも引っかかってのれない。あるいはこの顛末、博士に帰依するように「医者になる!」と来るのだが、モンスター脳の私からすると、むしろここからが本題なのだ。鬼畜夫を文字通り畜生化させるマッド手術に彼女が没入して夫を追い込んでいく狂気がとっくり描かれる、ようやくモンスター女優の本領発揮かなんて期待していたら…あっさりと省略のモンタージュは、どうやらコメディということのようです。。。

監督よりもはるかにフランケンシュタインの悲哀を理解していそうなデフォーがいなければ、本当に見られたもんじゃなかったと思われる。

(評価:★2)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)けにろん[*]

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