[コメント] 悪魔の美しさ(1949/仏=伊)
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ドイツ文学の名作「ファウスト」を題材に、フランス人監督のクレールによって作られたファウスト物語。元ネタに関しては過去に色々書いたのでここでは割愛するが、硬さがなく、とてものびのび作られているあたり、流石フランス作品。と思わせるところあり。
ファウスト物語はどこの国で作っても何本作っても、見所はオープニングのファウストとメフィストの契約部分となる。
それまで真面目で高潔に生きてきた人物が、老いという現実に直面し、若さとひき替えに魂を売る。その決断と、それによって得られる若い肉体の快感。この一連のシークェンスにこそある。
極論を言ってしまえば、この部分が終わると後はどうしても陳腐化してしまうのは避けられない。それだけオープニング部分に勝る物語を付けるのは至難の業なのだ。
最初からそう言うハンディを持って作られる事になるのだが、結論を言えば、本作もやはりオープニングが最大の見所であるには違いがない。それこそ悪魔の如きフィリップの表情や、とんでもない取引をしてしまった。と言う絶望の顔にゆがむシモンの表情。そしてそれらが融和し、開き直るあたりの演技は、流石にフィリップの巧さを引き出している。
ただ、それ以降の物語についても本作は決して陳腐化までは至っていない。設定の面白さでぐいぐい見せることが出来ている。
例えばゲーテ版の小説「ファウスト」では、ファウストは薄幸の娘グレートフェンと出会い、犯罪に手を貸させる。ところがここではマルグリットという宿無し娘に変えられており、しかもこのマルグリットが底なしの陽気な娘。悪魔とも対等に渡り合い、最後には悪魔からファウストを取り戻してしまう。これ作られたのがドイツだったら、まずこんな物語にはさせられないだろう。フランス流のエスプリあっての物語構成。
そしてメフィストがファウストに与えた錬金術の力というのは、塵から莫大なエネルギーを作り出すというもの。ほとんど原子力の話だ。
これから推測出来るのは、本作は戦争というものを背後に持った作品であると言う事だろう。
既に人間は悪魔に勝る戦争のテクノロジーを得てしまっている。最早超常的な力さえも、人間の欲望を止めることはできないし、むしろそのテクノロジーを使って悪魔をさえ越えてみせられる。
一応本作はハッピーエンドなのだが、色々薄ら寒いものを感じてしまうところもある。純粋な魂が悪魔を倒す。しかし、その悪魔は「人間は地獄より恐ろしい」と叫び退場。色々な部分で皮肉を入れずにはいられないクレールのエスプリの効いた演出を楽しめればいい。
フランス流のエスプリとは、笑いの中に痛烈な皮肉が入っているからこそ楽しめるものなのだから。
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